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メールマガジン Vol.044

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 春秋社 メールマガジン【Vol.044】
    2022年 11月 1日配信
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 巻頭言!
 「私って何だろう?」……と、とりあえず言ってはみたものの、私って自明じゃないですかね。だって、いま「どんな文章を巻頭言に書いたら少しは楽しんでもらえるんだろうか」とか、「俺の文才ではおもしろい文章なんか書けないんだ!」とか懊悩しているのが私じゃないですか。デカルト先生の「我思う、故に我あり」とはよく言ったもので、こうして考えたり感じたり悩んでたりする以上、私の存在は当然のことのように思われます。
 だから問題は「他者」のほうに向かいがちで、「私はこうして意識があって、いろいろ考えたり感じたりしているが、私以外の存在にも私のように意識があって、私のように考えたり感じたりしているのか」、つまり「他者にも「私」はあるのか」という話になります。哲学の伝統では「他我問題」というやつです。当然ながら他者が何か考えているのか、何か感じてるのかなんて直接知りようはないし――というか、直接知りようがないからこそ他者なのであって、直接わかったら、それは他者ではなくて自分であります――、一方で、直接わからないなら間接的にわかるのかといったら、これもなかなか説得的な説明ができないことは、野矢茂樹先生の傑作『哲学・航海日誌』の第1章に詳しく語られています。だからこそ、他者は実は意識も感覚も持たない存在=哲学的ゾンビ=かもしれない、なんて思考実験も出てくるわけであります。
 とはいえ、考えてみれば、私がこの文章を書いていること自体、この文章を読んでくれる読者の存在を前提としているわけで(一人もいないことはないと信じたい[泣])、とすれば、われわれは、心のある他者の存在を前提にしつつ、その他者に心があることを説明できないと悩むという堂々めぐりをしていることになります。
 ところが――こんなことを長々と書いてきたのに恐縮ですけれども――このたび弊社が刊行した『独在性の矛は超越論的構成の盾を貫きうるか』の著者、日本で最も独創的な哲学者と称されることもある永井 均先生の問いは、むしろ真逆なのです。私には、この心、この意識しかなく、これがすべてなのに、なぜ、たくさんある心や意識のひとつというふうに相対化されてしまって、私という存在のただひとつであり、すべてであるというありかた=独在性が閑却されてしまうのか。他者に心があるとどうしてわかるのか、ではなくて、自分の心が唯一無二の存在なのに、どうしてワン・オブ・ゼムのように考えてしまうのか、ということに焦点があります。実際、さきほど「私には、この心、この意識しかなく」と言いましたが、「私には」という表現は「私以外の人には」という意味を予感させ、無意識裡に、たくさんある私がすでに前提されてしまっています。
 何をどう考えていても、いつのまにか唯一の私ではなく、たくさんのなかのひとつの私にすりかわってしまう。そんな思考の罠を回避して、ただひとつの私の風景を明らかにすること。
 永井哲学のこの「ただひとつの私」についての徹底的な思索は、実際に読んで実感していただくしかありませんが、とくに『独在性の矛は超越論的構成の盾を貫きうるか』では、時間的に持続する私を考えた途端、超越論的な構成が働いて、ただひとつの私の世界ではなく、客観的世界が成立してしまうというアンチノミーが提起され、永井哲学の新たな展開を告げています。そのスリリングな思索をぜひご体験ください。(K2)

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■目次■
▼webマガジン「web春秋 はるとあき」
▼「じんぶん堂」好評連載中!
▼新刊案内(10月刊行)
▼近刊案内(11月刊行予定)
▼重版情報
▼編集後記

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☆webマガジン「web春秋 はるとあき」☆ https://haruaki.shunjusha.co.jp
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○好評連載○
〇「アルス・ピヤニカ――鍵盤ハーモニカの楽堂」 南川 朱生(ピアノニマス)
SNSやメディアで注目のプロ鍵盤ハーモニカ奏者による、長年蓄積した研究の集大成。
【第10回】悪魔の指名打者、鍵盤ハーモニカ → https://haruaki.shunjusha.co.jp/posts/6372
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〇「名なしのカメはAIの舞に興味がない」 田中 真知
ひょんなことから団地の一室でカメの世話をすることになった男と、AIの舞の共同生活。
【第14回】ポスト・システムダウン → https://haruaki.shunjusha.co.jp/posts/6654

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★「じんぶん堂」好評連載中!★
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出版社と朝日新聞社による、“人文書の魅力を発信していくプロジェクト”「じんぶん堂(powered by 好書好日)」、ぜひご覧ください。※毎週木曜日更新(月3回)
◇10月13日 公開◇
「イギリスの哲学者メアリー・ウォーノックとは何者か? 『考えるあなたのための倫理入門』の著者が説く、倫理的思考の鍛え方・前編」 →
https://book.asahi.com/jinbun/article/14734685
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◇10月20日 公開◇
「メアリー・ウォーノックが探究する倫理の根源:『考えるあなたのための倫理入門』の著者が説く、倫理的思考の鍛え方・後編」 →
https://book.asahi.com/jinbun/article/14735691

→ 書籍はこちらから『考えるあなたのための倫理入門』
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393324035.html

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☆新刊案内(10月刊行)☆ https://www.shunjusha.co.jp/search/new.html
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●チベット史〈新装版〉
ロラン・デエ 著  今枝 由郎 訳
四六判/504頁/口絵8/6,600円
神話時代から現在まで、特に近現代に重点をおいた、激動のチベット通史。仏教を精神的中核とする民族特有の世界観・歴史観をあます所なく語り尽くす画期的大著。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393118245.html
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●インド密教史
田中 公明 著
四六判/312頁/口絵1/3,300円
最新の考古学的知見も取り入れ、インド密教の原初形態が現れてから、『大日経』『金剛頂経』の成立を経て、『時輪タントラ』の後期密教に至るまでをたどる格好の概説書。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393134580.html
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●公共宗教論から謎めいた他者論へ
磯前 順一 著
A5判/424頁/4,950円
東日本大震災後の宗教と公共論で欠けていた神仏や天皇といった公私の領域を問わずに影響を及ぼす「謎めいた他者」と、その影響の下での公共空間と主体の形成を論じる。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393299531.html
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●独在性の矛は超越論的構成の盾を貫きうるか ――哲学探究3
永井 均 著
四六判/308頁/2,310円
現に私が私であることが無根拠なら、急に違う人が私になることもできそうだが、そこに客観的世界を構成する力との競い合いが始まる。カントも知らない二律背反に導く一冊。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393324028.html
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●AIとオープンソースで真贋を見る目を養う ――素人の発想力・玄人の技術力
武藤 佳恭/谷口 敬太 著
四六判/264頁/2,200円
今やさまざまなプログラムやデータがオープンにされ、素人も玄人も同じ情報を持てる時代。複数のデータを突き合わせることで、問題の本質を剔抉する。ScienceやNature等の国際ジャーナルに多くのコメント論文を掲載している武藤流インテリジェンスの原点が明かされる。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393350027.html
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●魯迅を読もう ――〈他者〉を求めて
王 欽 著
四六判/296頁/2,860円
中国近代文学の巨匠にして、多くの人がその名を知っている魯迅の作品を読む。広範囲に及ぶ文学の知識や素養を踏まえながら、今こそ問うべき「文学の意義」に迫る。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393461358.html
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●チェンバロ大事典
日本チェンバロ協会 編
A5判/496頁/口絵8/5,500円
チェンバロやクラヴィコードなど歴史的な鍵盤楽器の500年に亘る歴史を一望。楽器の仕組みや様式を豊富な図とともに解説。作曲家や音楽家、曲集や理論書、さらには演奏法など実践で役立つ情報も満載。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393930410.html
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●[楽譜]ダンテの『神曲』による12の歌曲集
伊能美智子 作曲  平川祐弘 訳詞  藤谷道夫 訳詞・構成・解説
A4判/56頁/2,420円
西欧文学、最高の古典に音楽を付した声楽作品。斯界の第一人者による訳詞、12曲を厳選。取り上げる訳詞への詳細な解説付き。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393924150.html

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★近刊案内(2022年11月刊行予定)★ https://www.shunjusha.co.jp/search/next.html
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『現代日本語訳 浄土三部経』
正木 晃 著
四六判/320頁/2,750円
浄土宗・浄土真宗の基本経典である『阿弥陀経』『無量寿経』『観無量寿経』の三経を、難解な仏教用語を避けて現代語訳。経典の成立過程や信仰の実態についても解説。
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『禅の調べ ――はじめて唱う白隠禅師「坐禅和讃」』
細川 晋輔 著
四六判/280頁/口絵2/1,980円
衆生本来仏なり 水と氷の如くにて――江戸時代より今日まで広く親しまれている白隠禅師「坐禅和讃」。四十四句に込められた真心を、身近な比喩と共にあたたかに読み解く。
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『お守りを読む ――日本人は何を願ってきたのか』
鳥居本 幸代 著
四六判/184頁/2,200円
人はなぜお守りをもつのか。千年をこえる歴史の中で日本人の精神を涵養してきたお守り。伝承や古典、史料等からルーツと変遷を辿り、祈りと願いの文化を探る。
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『マザー・グースの音楽帖』
志田 英泉子 著
A5判/144頁/2,200円
世界中で最も有名な英国発、童謡の世界。生きた伝承にもとづく24曲の楽譜(ピアノ伴奏)とエッセイの楽しみ。リズムとイントネーションに着目して遊びながら英語力がつく。

(※刊行時期は変更となる場合がございます。)

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☆ 重版情報 ☆
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正解のない子育ての日々を過ごす親御さんたちに贈る「子育てアドバイスブック」2点、待望の重版出来!
○『シュタイナーのこどもの育てかた おとながこどもにできること』
ローター・シュタインマン 著  鳥山 雅代 訳
四六判変形/208頁/2,090円
シュタイナー学校の先生である著者が、自らのでこぼこな子育ての日々を語りながら、とっておきのアドバイスを伝授。【好評7刷】
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393373248.html
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○『ママのためのシュタイナー教育入門』
ドーリス・シューラー 著  鳥山 雅代 訳
四六判/200頁/2,200円
こころとからだをつなぐエコロジカルな子育てスタイルとしてシュタイナー教育には、実はお母さん自身を元気にするヒントがいっぱい! 初めてでも読みやすい新スタイルのシュタイナーの子育てサポートブック第2弾。【好評6刷】
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393332856.html

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□編集後記□
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 小社も参加しました、第30回神保町ブックフェスティバルが無事に終了いたしました。当日は天候に恵まれ、3年ぶりの開催は大盛況となりました。ご来場いただいたみなさま、誠にありがとうございました。
 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、さまざまなイベントが中止となったこの二年半。こんなにも多くの方々が「本との出会い」を求めて足を運んでくださるのだということに感動するとともに、出版に携わる者として身の引き締まる思いがいたしました。
 創業から105年。小社はこれからも良書の刊行につとめ、読者のみなさまとともに歩んでまいります。記念復刊の第1弾は、神秘の国チベットの激動の歴史を振り返る大著『チベット史』。12月以降も鈴木大拙による『真宗入門』や、大森曹玄による『剣と禅』など、名著の復刊を予定いたしております。
 今後の新刊、復刊のラインナップにどうぞご期待ください!(A)

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□春秋社 メールマガジン□ 毎月1回(月はじめ)配信

発行:株式会社 春秋社
〒101-0021 東京都千代田区外神田2-18-6
ホームページ: https://www.shunjusha.co.jp/
Twitter: https://twitter.com/shunjusha/
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(TEL:03-3255-9611 FAX:03-3253-1384)
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■バックナンバー
【Vol.042】https://haruaki.shunjusha.co.jp/posts/6277(2022年9月1日 配信)
【Vol.043】https://haruaki.shunjusha.co.jp/posts/6697(2022年10月3日 配信)
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