メールマガジン Vol.078
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春秋社 メールマガジン【Vol.078】
2025年 9月 5日配信
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巻頭言
新学期が始まり、学校には久しぶりに子どもたちの声が響いていることだろう。教室では、休み中の出来事をにぎやかに語り合う子たちもいれば、その輪の外で不安げに席につく子もいるかもしれない。集団での学校生活は、子どもにとって成長の舞台であると同時に、「自分は他の子たちと違うのではないか」という戸惑いに直面する場にもなる。
東京・渋谷区にこの春開設された「sparK(スパーク)」は、ギフティッドの傾向をもつ中高生を対象とした「居場所」だという。学校になじめない、自身の完璧主義に息苦しさをおぼえる──そんな声にこたえるように、「安心して過ごせる空間でありながら、自分の興味や関心に基づいて自由に活動できる拠点」をコンセプトに掲げる。文部科学省もまた、学習指導要領の改訂案に「特定分野に特異な才能をもつ児童生徒」への特例を盛り込み、2030年度からの導入を目指している。多様な学びを支えようとする動きが少しずつ始まっている。
ただ、日本では「ギフティッド=早熟な天才児」というイメージが根強い。小学一年生で高校数学を解く子には注目が集まる一方で、知能と情緒の発達のズレや環境とのミスマッチ、極端に強い感受性などから、友人関係がうまくいかなかったり、本来の力を発揮できなかったり、問題児扱いされたりする子が「ギフティッド」と見なされることはほとんどない。けれども、ギフティッドネスは学力や功績だけで測れるものではない。現状では、そうした見えないギフティッドたちは気づかれぬまま埋もれ、社会の中で孤立している。
新刊『ギフティッドネス──理解と支援のための基礎・基本』(リンダ・クレガー・シルバーマン著/角谷詩織・北條礼子訳)は、ギフティッドをめぐる偏見や誤解を丁寧に解きほぐしていく。標準から外れていることの意味を明確に示し、IQという数値だけでなく、子ども全体を包括的に評価する必要があると説く。さらに、心理的な特性、学習障害をあわせもつ2E児、検査による判定方法、家庭・教育現場での具体的な支援のあり方など幅広いトピックを掘り下げる。まさにギフティッドの「教科書」ともいえる充実した内容である。
子どもが抱く違和感にいち早く気づくのは、たいてい親だ。早期発見・早期介入を訴える本書は、家庭の役割の重要性も強調する。埋もれた小さな芽へ向けられるまなざしこそが、ギフティッドを孤立から救いだす出発点となる。家庭から学校、そして社会全体での受容へ──本書はその道筋を示してくれる。
子どもの力は適切な理解と対応のもとでこそ健やかに伸びる。本書が一人ひとり異なる子どもたちと向き合い、未来をともに考える手引きとなることを願うばかりだ。(j)
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■目次■
▼webマガジン「web春秋 はるとあき」
▼「じんぶん堂」好評連載中!
▼新刊案内(8月刊行)
▼近刊案内(9月刊行予定)
▼書評・重版情報
▼営業部だより
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☆ webマガジン「web春秋 はるとあき」☆ https://haruaki.shunjusha.co.jp/
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●新連載●
○スカートの裾を投げて――女性シンガーソングライターとポストフェミニズム 星川彩 → https://haruaki.shunjusha.co.jp/categories/1142
自身もシンガーソングライターである著者が、日本の女性歌手の主体性や彼女らをめぐるジェンダーロールについて考えてゆく。
【第1回】はじめに → https://haruaki.shunjusha.co.jp/posts/9048
●好評連載●
○軽刈田凡平の新しいインド音楽の世界 軽刈田凡平 → https://haruaki.shunjusha.co.jp/categories/1119
いま世界でもっとも面白い音楽シーンをめぐる連載。案内人は新進気鋭のインド音楽ライター、軽刈田凡平(かるかった・ぼんべい)
【第5回】ダンス天国、ゴア! → https://haruaki.shunjusha.co.jp/posts/9070
○鋼鉄の講義室 メタル文化学入門 齋藤 桂 → https://haruaki.shunjusha.co.jp/categories/1126
様々な角度からヘヴィー・メタルとそれをとりまく文化を捉える試み。「メタル文化学入門」の開講!
【第5回】拡散と求心――ディスコとヘヴィー・メタル → https://haruaki.shunjusha.co.jp/posts/9095
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★「じんぶん堂」好評連載中!★
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出版社と朝日新聞社による、“人文書の魅力を発信していくプロジェクト” 「じんぶん堂(powered by 好書好日)」では書籍紹介や読み物など、魅力的な内容をお届けしています。ぜひご覧ください。※木曜日更新(月3回)
◇8月7日 公開◇
「ばけばけ」主人公のモデル、小泉セツと小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の別れ → https://book.asahi.com/jinbun/article/15928171
2025年秋放送開始の朝ドラ「ばけばけ」は小泉セツ&八雲(ラフカディオ・ハーン)夫妻がモデルの物語である。「ハーンは仏教徒だったか?」という問いを中心に仏教・ヒンドゥー教との関わりについて論じている本から、ハーンの仏教への傾倒ぶりが分かる彼の最期についての箇所を紹介。
書籍はこちらから → 『ラフカディオ・ハーン――源郷としてのインド』
◇8月14日 公開◇
仏教のアップデートは「怒り」から始まる ドイツ生まれの禅僧・ネルケ無方さん寄稿(前編) → https://book.asahi.com/jinbun/article/15911094
◇8月21日 公開◇
仏教のアップデートは「怒り」から始まる ドイツ生まれの禅僧・ネルケ無方さん寄稿(後編) → https://book.asahi.com/jinbun/article/15937339
「人生はクソゲーだ」……そう感じたことはあるでしょうか? 実は仏教にそのクソゲーを変える力があるとしたら?
クソゲーな人生に対する仏教の取り組み方と、人生の無意味と坐禅についてドイツ生まれの禅僧が語る。
書籍はこちらから → 『人生というクソゲーを変えるための仏教』
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★新刊案内(8月刊行)★ https://www.shunjusha.co.jp/search/new.html
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●『パーリ語初期韻文経典にみる 最古の仏教』
並川 孝儀 著
四六判/304/4,180円
初期韻文経典の説示を通して、ゴータマ・ブッダや直弟子たちの最古層の仏教を考察し、韻文経典の段階で教理化が進んでいることを明らかにした画期的書。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393113837.html
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●『人生というクソゲーを変えるための哲学と坐禅』
ネルケ 無方 著
四六判/280頁/2,420円
哲学者永井均の哲学・瞑想論と著者の四代前の師匠・内山興正の坐禅論を手がかりに、坐禅とは何か? 坐禅がどうやって人生を変えるのか? などの問題に迫る。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393134719.html
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●『ギフティッドネス――理解と支援のための基礎・基本』
リンダ・クレガー・シルバーマン 著 / 角谷 詩織 訳、北條 礼子 訳
四六判/392頁/3,520円
ギフティッド児の特性や支援のあり方、誤解されがちな神話、2Eの理解と対応、家庭環境の影響など、広範なトピックを丁寧に掘り下げる。理解と支援の包括的解説書。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393373330.html
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●『土壌の神秘――ガイアを癒す人びと〈新装版〉』
ピーター・トムプキンズ、クリストファー・バード 著 / 新井 昭廣 訳
四六判/704頁/7,700円
汚染され荒廃した大地や森林を救うべく、シュタイナーの生命力学農法を中心にオルタナティヴな農法や生態学的研究に取り組む人たちを訪ね歩いた渾身のドキュメンタリー。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393741627.html
*今月の営業部イチオシ本*
●『新編 琉球の人文』
柳 宗悦 著 / 宇田 智子 解題
四六判/264頁/2,970円
柳宗悦が見出した沖縄独自の「人文」とは。
柳宗悦、河井寛次郎、濱田庄司によって「民衆的工藝」を略した「民藝」という言葉が新たに生み出されてから百年。
『沖縄の人文(新装・柳宗悦選集第五巻)』(春秋社、1972年刊)を中心に「琉球の人文」に関する論考を新たに取捨選択し編み直した、沖縄の新たな魅力を伝える一冊。
エッセイスト・宇田智子氏(那覇市・「市場の古本屋ウララ」店主)による解題付き。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393424643.html
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★近刊案内(2025年9月刊行予定)★ https://www.shunjusha.co.jp/search/next.html
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●『台風と共に――山田無文老師の禅境に参ずること七十三年』
則竹 秀南 著
四六判/200頁/1,980円
台湾で生まれ、戦中・戦後の苦難をくぐりぬけながら、稀代の禅僧・山田無文老師に仕え、その指導のもと、ともに海外に国内に旅しつつ、禅の本質にめざめていく半生の記録。
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●『社会の未来――1919年の講演録〈新装版〉』
ルドルフ・シュタイナー 著 / 高橋 巖 訳
四六判/240頁/3,520円
人智学の共同体銀行をはじめ、シュタイナー学校、農場、病院等の建設の基礎となったシュタイナーの社会思想がわかる1冊。時代に抗して語られた持続可能な新しい「社会の未来」。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393325742.html
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●『社会問題の核心〈新装版〉』
ルドルフ・シュタイナー 著 / 高橋 巖 訳
四六判/216頁/3,520円
〈経済〉の原則が〈精神〉と〈法〉の領域を侵犯する近代の誤謬を論じた〈社会三分節化論〉。労働と賃金、教育と国家等の関係を根本から問い直し、新しい社会像を構想する。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393325759.html
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●『苦悩する人間〈新装版〉』
ヴィクトール・E・フランクル 著 / 山田 邦男、 松田 美佳 訳
四六判/240頁/2,860円
苦悩こそ「人生の意味」や「自己を超えた超越」へと導くものである。――人間精神の尊厳と自立性を訴えたフランクルが、その内奥に秘めた思想・信仰を明かした感動の書。
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●『愛する人を亡くした時〈新装版〉』
アール・A・グロルマン 著 / 日野原 重明 監訳 / 松田 敬一 訳
四六判/256頁/2,750円
子ども、夫や妻、親、友人と死別した人の実体験を紹介。喪失の悲しみ・苦悩の深さを克明に描き、豊富なカウンセリング経験から「死別の悲しみを癒す10の指針」を示す。
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●『[梅津時比古セレクション] [1]ゴーシュを聴く――宮沢賢治研究』
梅津 時比古 著
四六判/416頁/4,400円
音楽文化をめぐる評論の新しい地平。『《セロ弾きのゴーシュ》の音楽論』(芸術選奨文部大臣賞受賞作)と賢治研究の話題作『《ゴーシュ》という名前』を収録。解説=三浦雅士。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393936184.html
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♪楽譜〈新版〉♪ 計1点
●『[新版]リスト ピアノ作品集[4]――ハンガリー狂詩曲 スペイン狂詩曲』
井口 基成 編集・校訂・運指 / 近藤 嘉宏 解説
菊倍判/228頁/3,520円
ハンガリー狂詩曲(全15曲)/スペイン狂詩曲。
(※刊行時期は変更となる場合がございます。)
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☆書評・重版情報☆ https://www.shunjusha.co.jp/news/
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○日本経済新聞朝刊8/16にて『プロパガンダ』が紹介されました https://www.shunjusha.co.jp/news/n61849.html
2025年8月16日の日本経済新聞朝刊にて、ジャック・エリュール 著、神田 順子・河越 宏一 訳『プロパガンダ』の書評が掲載されました。
評者は、立命館大学教授の根津朝彦氏です。
「60年以上前に出された本でありながら、この本の魅力は古典にふさわしい多様な読み方ができる点だ」
「プロパガンダに対峙する際に重要になるのが批判精神と個人の判断力である。〈...〉ではどうすればいいのか。その思考材料はエリュールが鋭い警句とともにちりばめている」
♪重版情報♪ https://www.shunjusha.co.jp/news/nc3760.html
●『人生というクソゲーを変えるための仏教』
ネルケ 無方 著
四六判/2025年6月刊/定価2,200円【2刷】
理屈っぽいドイツ人禅僧が、仏教は人生というクソゲーから降りて新しい何かを見いだそうとする営みであると定義し、原始仏教、大乗仏教、親鸞、道元と仏教の教えを辿ってそれを現代人に分かりやすく整理する異色の仏教入門書。
●本書は電子版もございます。
☆本書は、2025年8月2日の日本経済新聞朝刊「活字の海で」(“ブッダの教え、解説本を若者が支持 競争主義からの解放求めて”)にて紹介されました! https://www.shunjusha.co.jp/news/n61852.html
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□営業部だより□
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昨日9月4日は、オーストリアの作曲家アントン・ブルックナーの誕生日(1824-1896)でした。
この機会に、彼の人物像や作品理解の助けとなる、小社書籍を以下の通り提案いたします。
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『アントン・ブルックナー』
(フェーリクス・ディアガーテン 著 / 池上 健一郎 訳、2024年刊、定価3,960円)
19世紀という時代を生き、遅咲きではあったが“交響曲作家”として成功したその確固たる歩みを追う。最新の知見にもとづく評伝。
『アントン・ブルックナー――魂の山嶺〈新装版〉』
(田代 櫂 著、2021年刊、定価3,520円)
ブルックナーの知られざる人物像に迫る画期的評伝。偉大な音楽からは窺い知れぬ作曲家の意外な素顔と、彼の人生を彩る多士済々。
『ブルックナー 交響曲』
(ハンス=ヨアヒム・ヒンリヒセン 著 / 高松 佑介 訳、2018年刊、定価3,080円【3刷】)
独自の小宇宙を形成しているブルックナーの全交響曲を体系的かつコンパクトに解説。交響曲創作の背景と各交響曲の本質に迫る。
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気になった1冊をぜひ、お手に取ってみてください。 (E)
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【Vol.077】 2025年 8月 1日 配信
【Vol.076】 2025年 7月 4日 配信
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