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メールマガジン Vol.058

※HTML版はこちらをご覧ください。

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 春秋社 メールマガジン【Vol.058】
    2024年1月1日配信
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 巻頭言
 新年あけましておめでとうございます。昨年はさまざまな場ににぎわいが戻り、街を散策する外国人観光客の多さからもそれを実感できました。
 昨年末のこと、小社からほど近いとあるスーパーにバックパックを背負った外国からの観光客とおぼしき数人の姿がありました。観光スポットを巡るついでにぶらりと立ち寄ったのでしょうか、入り口付近の特設台で何やら手に取っているのは箱入りの鏡餅でした。張り子の餅部分はプラスチック製で、箱から出してそのまま飾ることのできる便利なシロモノ。彼らが鏡餅の用途まで理解していたかはわかりませんが、物珍しそうに箱をひっくり返したりしてはしげしげと眺めていたのが印象的でした。
 ところで、この鏡餅の慣わしは、いつ頃から行われていたのでしょうか。じつは文献上、最も古い例とされているのが『源氏物語』初音の巻にあります。

――新春第一日の空の完全にうららかな光のもとには、どんな家の庭にも雪間の草が緑のけはいを示すし、春らしい霞の中では、芽を含んだ木の枝が生気を見せて煙っているし、それに引かれて人の心ものびやかになっていく。まして玉を敷いたと言ってよい六条院の庭の初春のながめには格別なおもしろさがあった。(中略)女房たちも若いきれいな人たちは姫君付きに分けられて、少しそれより年の多い者ばかりが紫の女王(にょおう)のそばにいた。(中略)女房らは歯固(はがため)の祝儀などを仲間どうしでしていた。鏡餅なども取り寄せて、今年じゅうの幸福を祈るのに興じ合っている所へ主人の源氏がちょっと顔を見せた。――(与謝野晶子訳、青空文庫より)

 鏡餅は当時「餅鏡(もちいかがみ)」とよばれ、年始に長寿や幸福を祈願して供えたと伝えられています。ここでは、光源氏が新春を言祝ぐため六条院の女君たちのもとを訪れたところ、紫の上の御殿で歯固の儀に加え鏡餅に願い事をする様子が描かれており、いかにもみやびやかな情景が目に浮かびます。こうした六条院の風韻を重ねあわせると、わが家のプラスチックの鏡餅もそのつるんとした肌を誇らしげに光らせ、どことなくおごそかに鎮座ましましているように見えてくるので不思議です。
 さて、今年のNHK大河ドラマは紫式部を主役に据えた「光る君へ」。放送開始前から関連書籍が書店の棚をにぎわせているようです。小社でも平安時代の女性たちの日常そして生涯に光をあてた『紫式部と清少納言が語る平安女子のくらし』鳥居本 幸代 著)を昨秋刊行しました。源氏物語はなぜ、千年の時をへてもなお私たちを惹きつけてやまないのか。著者の鳥居本氏はこのように読み解いています。背景が奥深く、輪廻転生、因果応報などの仏教思想や、貴種流離譚が描かれることによって「もののあわれ」を表現し、読者の心の琴線にふれる仕掛けがなされているからではないか――と。
 ご存じのとおり源氏物語は54帖にもおよぶ長編で、全文読破した方は多くないかもしれませんが、この機にあらためて平安王朝の世界に遊んでみるのも一興かもしれません。願わくはそのお供に 『紫式部と清少納言が語る平安女子のくらし』も加えていただければ、この上ない喜びです。
 2024年が素晴らしい年となりますように。かの源氏や女性たちも願いをよせた鏡餅にその思いを託し、一年の幸福を祈り上げたいと思います。(j)
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■目次■
▼webマガジン「web春秋 はるとあき」
▼「じんぶん堂」好評連載中!
▼今月の営業部イチオシ本
▼新刊案内(12月刊行)
▼近刊案内(2024年1月刊行予定)
▼重版情報
▼編集後記

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☆ webマガジン「web春秋 はるとあき」☆ https://haruaki.shunjusha.co.jp/
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●好評連載●
○「フォルモサ南方奇譚――南台湾の歴史・文化・文学」 倉本 知明
南台湾各地を舞台に、歴史や伝承を辿りながら知られざる台湾の姿を描き出すエッセイ。
【第9回】ロウ濃渓サバイバル(ロウは草かんむりに老):帰ってきた紅毛の親戚と合従連衡するマイノリティ → https://haruaki.shunjusha.co.jp/posts/7674
○「文字の渚」 岩切正一郎
文学、詩歌、戯曲、映画。古今東西の表現芸術のなかから、言葉の「変形」を読み解き、芸術の持つ力を再考する。
【第7回】記憶と記憶の向こうの過去 → https://haruaki.shunjusha.co.jp/posts/7677
○「人生というクソゲーを変えるための仏教」 ネルケ 無方
人生というクソゲーを遊んで楽しい本当のゲームに変える方法を探る。
【第16回】坐禅 or 菩提心?――道元のジレンマ → https://haruaki.shunjusha.co.jp/posts/7716

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★「じんぶん堂」好評連載中!★
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出版社と朝日新聞社による、“人文書の魅力を発信していくプロジェクト” 「じんぶん堂(powered by 好書好日)」では書籍紹介や読み物など、魅力的な内容をお届けしています。ぜひご覧ください。※毎週木曜日更新(月3回)

◇12月7日 公開◇
平安時代、宮廷に仕えた女房たちのリアルな日常とは?――『紫式部と清少納言が語る平安女子のくらし』 → https://book.asahi.com/jinbun/article/15063027
◇12月14日 公開◇
とりわけ苦悩したことは?…平安時代の女性が直面した宮廷の人間関係――『紫式部と清少納言が語る平安女子のくらし』 → https://book.asahi.com/jinbun/article/15074260
書籍はこちらから→ 『紫式部と清少納言が語る平安女子のくらし』 → https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393482308.html

◇12月21日 公開◇
「仏道をならふといふは……」の意味とは――『正法眼蔵 全 新講』 → https://book.asahi.com/jinbun/article/15084766
書籍はこちらから→ 『正法眼蔵 全 新講 第一巻』 → https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393152331.html

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*今月の営業部イチオシ本*
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●希望のディアスポラ――移民・難民をめぐる政治史
早尾 貴紀 著
四六判/256頁/2,530円
欧米と中東における移民・難民。人間の越境の歴史は現代社会とどう関わっているのか。パレスチナ/イスラエル研究者が、「国家」「民族」「よそ者」の既成概念にゆさぶりをかけ、「故郷(ホーム)」の概念を更新する野心的試み。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393333778.html

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★新刊案内(12月刊行)★ https://www.shunjusha.co.jp/search/new.html
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●人生の意味の哲学入門
森岡 正博、蔵田 伸雄 編
四六判/320頁/2,420円
「生きることに意味はあるのか?」 この問いを分析哲学的に研究する知られざる21世紀英語圏の新しい哲学的ムーブメントを紹介し、各自の観点から実際に探究する入門書。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393333952.html
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●バロックピアノ曲集
井口 基成 編集・校訂
菊倍判/160頁/2,420円
歴史ある「井口版」」が装いも新たにリニューアル! リュリ、クープラン、ラモー、ダカンの楽曲を収録。〈新装版〉
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393918227.html

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★ 近刊案内(2024年1月刊行予定)★ https://www.shunjusha.co.jp/search/next.html
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『日本仏教に未来はあるか』
平岡 聡 著
四六判/258頁/2,750円
律の不在、納得いかない葬式、閉鎖的な僧団……僧籍も持つ仏教研究者の著者が現代日本仏教の問題を批判しつつ、改善案を提示し、日本仏教を未来につなごうとする。
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『はじめての人におくる般若心経』
横田 南嶺 著
四六判/272 頁/2,200 円
「変わりゆく」ことの積極的な意味とはなにか。空の思想、「実体がない」という感覚を、多彩な切り口からやさしく説く。豊穣な叡智の織りなす珠玉の「般若心経」講義。
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『[續天台宗全書 第III期]密教5――事相2』
天台宗典編纂所 編
菊判函入/592頁/24,200円
『船中鈔』3巻、『息心抄』8巻、『大日経義釈鈔』1巻をはじめ、台密事相研究の重要書8書目を収録。第三回配本。
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『増補改訂版 哲学・航海日誌』
野矢 茂樹 著
四六判/432頁/2,970円
他者の心、行為の意味など現代哲学の根底の謎に挑んだ名著が復活! 思索の発展を補注に付し、現在の野矢哲学への道のりを「その後の航海」として追補した23年の軌跡。
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『幸福をめぐる哲学者たちの大冒険! 15の試論』
五十嵐 沙千子 編
四六判/352頁/2,750円
私たちは自分の研究の紹介がしたいんじゃない。あなたに幸福になって欲しいんだ! そんなコンセプトで紡がれる古今東西の哲学を研究する12人の幸福に関する試論。
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『筋肉坊主のアフリカ仏教化計画――そして、まともな職歴もない高卒ほぼ無職の僕が一流商社の支社長代行として危険な軍事独裁政権末期のナイジェリアに赴任した2年間の話』
石川 コフィ 著
四六判/264頁/1,980円
謎のマッチョ坊主の紹介で職を得た僕は、世界最凶の危険都市ラゴスへ。突然の独裁者の死と度重なる暴動そして奇跡の民主化を目撃した商社マンによる、抱腹絶倒の駐在記。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393495414.html
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『美食家ロッシーニ――食通作曲家の愛した料理とワイン』
水谷 彰良 著
四六判/324頁/2,420円
フォアグラやトリュフをこよなく愛し、料理名にもなったロッシーニ。語り継がれた逸話、カリカチュア、書簡から垣間見える真実など余すことなく紹介。レシピも多数収録。[カラー口絵8]
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『[春秋社音楽学叢書]ベートーヴェンと大衆文化――受容のプリズム』
沼口 隆、 安川 智子、 齋藤 桂、白井 史人 編著
四六判/328頁/3,080円
メディアの中でベートーヴェンの姿はどのように表現されてきたのか。20世紀の文学作品や映画などに現れる作曲家像を探り、受容史の新たな在り方を提示する。

(※刊行時期は変更となる場合がございます。)

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★ 重版情報 ★ https://www.shunjusha.co.jp/news/n55475.html
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『微笑みを生きる――〈気づき〉の瞑想と実践』
ティク・ナット・ハン 著 / 池田 久代 訳
四六判/224頁/1,980円
「いま」「ここ」の自分に気づき、苦悩や不安をやすらぎに変える瞑想法や、個人の平安を世界の幸福にみちびく実践論を、詩的なわかりやすいことばで綴った著者の仏教思想のエッセンス。日常のなかから真理と平和への一歩を踏みだすための具体的な方法論を平明に語る現代の仏教入門。【新装版7刷】
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393333082.html

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□営業部だより□
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 謹んで初春のお慶びを申し上げます。おかげさまで小社は創業105周年を迎えることができました。これもひとえにみなさまのご愛顧とご支援の賜物と深く感謝申し上げます。
 昨年は105周年記念出版として、原始仏典シリーズ第IV期『小部経典〈全16巻〉』と、南直哉老師による『正法眼蔵 全 新講〈全14巻・別巻1〉』の刊行を開始いたしました。内容見本をご希望の方には郵送いたします。また小社ウェブサイトでもそれぞれご確認いただけます。(『小部経典』内容見本:https://www.shunjusha.co.jp/files/shobukyoten.pdf)(『正法眼蔵 全 新講』内容見本:https://www.shunjusha.co.jp/files/Shobogenzo_minami.pdf
 また、105周年記念復刊の一覧もございますので、あわせてご覧いただければ幸いです。(創業105周年記念復刊のお知らせ:https://www.shunjusha.co.jp/news/n50881.html
 ありがたいことに創業以来、さまざまなジャンルのベストセラー、ロングセラーを世に送り出すことができました。そのなかでもV.E.フランクル 著『それでも人生にイエスと言う』は先月、発売からちょうど30年となりました。ナチスによる強制収容を生き延びた著者による、その体験を踏まえた思索の数々は、時を経てなお、いえ、世界中がさまざまな天災、疫病に見舞われ、紛争がやまず、明日が見えない今だからこそ、よりいっそう強く求められているのだと思います。
 これからも、みなさまのご期待に添うべく精一杯努力してまいりますので、ご支援ご厚情を賜りますようお願い申し上げます。本年も変わらぬご愛顧のほど、なにとぞよろしくお願い申し上げます。(A)

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■バックナンバー
【Vol.057】 2023年 12月 1日 配信 https://haruaki.shunjusha.co.jp/posts/7725
【Vol.056】 2023年 11月 1日 配信 https://haruaki.shunjusha.co.jp/posts/7619
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