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メールマガジン Vol.042

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 春秋社 メールマガジン【Vol.042】
     2022年 9月 1日配信
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 巻頭言!
 統一教会の問題が世間を騒がせていますね。霊感商法で多額の金を支払わされたとか、献金と称して大金を巻きあげられ家庭が崩壊したとか、話題は尽きません。実は、もう何十年も前のことになりますが、私は大学時代、勧誘されてビデオを見せられたことや、印鑑を売りつけられそうになったことがあるんですよ。
 勧誘と印鑑はまったく別々の出来事なんですが、印鑑のほうは、まず手相と姓名判断で占いをされまして、当たり障りのない話からだんだんと、手相や名前の画数のこの部分に先祖の因縁(確か色欲!)が表れていて、それがあなたに悪影響を与えている、といった話になり、その因縁を断ち切るためには、この印鑑を買って所持しておけばいいのです、というわけで、数十万もする印鑑のカタログのようなものが出てきたわけであります。
 ただ、印鑑を売りにきた人は、押しが強いセールスウーマン・タイプではなくて(女性だった)、地味な服装で、穏やかで、凄く誠実そうな人なんです。断っても、残念そうにはするけれど、そんなに食いさがるわけでもなく、それでは次の人をまわりますから、という感じで、むしろこんな人が高額な印鑑を売っていることのほうに衝撃を受けたわけであります。
 教団に勧誘されかけたときも、勧誘してきた人(こちらは男性)は、凄く優しげで穏やかな人だったんですね。
 その人に連れられて事務所へ行くと、まず三浦綾子さん原作の「塩狩峠」のビデオを見せられました。この話では暴走する客車を止めるためにキリスト教の信仰篤い車掌さんが線路に身を投げるわけですが、見終わると、「どうでしたか? あの人は信仰があったからこそ、みずからを犠牲にして人を救うことができたんですよ」と信仰の大切さを説かれます。そのあと今度は教義関係の入門用ビデオを見せられます。昔の話とて、内容をあまり記憶していないんですが、「すべてのものは陰と陽から出来ていて、善と悪、男と女……」といったところがあって、「あれ、これ東洋思想? キリスト教じゃなかったの?」と、びっくりしたのは憶えています。
 このあと本格的な勧誘が始まり、私はビデオに全然納得できなかったこともあって、激論になり、最終的には決裂して、事務所の外まで送ってもらったのですが、私を勧誘した人も、そのほかの人も、基本的にめちゃくちゃ穏やかなんですよ。議論のときはさすがにちょっと熱くなったりしていましたが、決裂して私を外に送るときもとても穏やかで、ていねいでした。
 もちろんこれは私という一個人の、カルトの入り口あたりをちらりと瞥見した程度のエピソードにすぎないわけですが、私は、怖いのは、この穏やかさや優しさだと思うんです。
 みんな一見いい人。安心して話ができるし、居心地がいい。特に孤独で淋しい人なんかには、嬉しい空間かもしれません。それで一緒にすごしているうちに、共感や仲間意識が生まれ、じわじわと感化され、なかば無意識のうちに、まわりの感じ方・考え方がすりこまれていって、やがてカルトに絡めとられてしまうのではないか。
 印鑑を売っていた人も、本当に印鑑が悪縁を払うと考えていたのか、お金を集めて教勢を拡大することが世界の救済に繋がると思っていたのか、信仰がすべてを赦すということなのかわかりませんが、私を騙しているといった意識はおそらくなかったように思います。しかし、それこそが真の恐怖ではないでしょうか。
 人の心を、本人の意識としてはあくまでも自分の意志で、教団のために行動するようにしてしまうこと、それはときに「洗脳」と呼ばれるものでありましょう。そして洗脳についてパイオニア的な著作といえば、やはり苫米地英人氏の『洗脳原論』であります。坂本弁護士殺人事件、地下鉄サリン事件をはじめ、多くの人を殺害し、日本中を混乱に陥れたオウム真理教を対象に、洗脳とは何で、その対処法は何かを解説した2000年刊行の本です。オウムには神秘体験という強烈なツールもあったので、キリスト教系のカルトには直結できないところもありますが、それでも多くのカルトで問題になる「洗脳」について知るには、いまだにこの本の価値は非常に大きいと確言できます。
 また、さらに多くのカルトの問題を知りたい方のためには、藤田庄市氏の『カルト宗教事件の深層』がオススメで、こちらでは統一教会の問題もかなり詳しく論じられています。
 安倍元首相殺害事件がきっかけでカルトの問題が大々的に騒がれるいうのは些かならず複雑な気持ちではありますが、せっかくの機会ですから、カルトに絡めとられないためにはどうすればよいか、カルトの被害に会う人を少しでも少なくするにはどうすればいいのか、これらの本を読んで考えていただければと願うのです。(K2)
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■目次■
▼webマガジン「web春秋 はるとあき」
▼「じんぶん堂」好評連載中!
▼新刊案内(8月刊行)
▼近刊案内(9月刊行予定)
▼重版情報
▼編集後記

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☆webマガジン「web春秋 はるとあき」☆ https://haruaki.shunjusha.co.jp
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●新連載●
○好評連載○
〇「アルス・ピヤニカ――鍵盤ハーモニカの楽堂」 南川 朱生(ピアノニマス)
SNSやメディアで注目のプロ鍵盤ハーモニカ奏者による、長年蓄積した研究の集大成。
【第8回】蠢く鍵盤ハーモニカ → https://haruaki.shunjusha.co.jp/posts/6035
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〇「名なしのカメはAIの舞に興味がない」 田中 真知
ひょんなことから団地の一室でカメの世話をすることになった男と、AIの舞の共同生活。
【第12回】ハイブリッド型サイボーグAI → https://haruaki.shunjusha.co.jp/posts/6045

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★「じんぶん堂」好評連載中!★
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出版社と朝日新聞社による、“人文書の魅力を発信していくプロジェクト”「じんぶん堂(powered by 好書好日)」では、著者みずから語る刊行書籍紹介や読み物など、魅力的な内容を毎週お届けしています。ぜひご覧ください! ※毎週木曜日更新(月3回連載)
◇8月4日 公開◇
「「鬼滅の刃」は宗教的? ――『魔法少女はなぜ変身するのか』の著者が語る現代の死・前篇」→
https://book.asahi.com/jinbun/article/14664460
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◇8月11日 公開◇
「「鬼滅の刃」の死後の世界はいいかげん? ――『魔法少女はなぜ変身するのか』の著者が語る現代の死・後篇」→
https://book.asahi.com/jinbun/article/14664473

→ 書籍はこちらから『魔法少女はなぜ変身するのか――ポップカルチャーのなかの宗教』https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393291627.html

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☆新刊案内(8月刊行)☆ https://www.shunjusha.co.jp/search/new.html
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●フッと心を軽くする 仏教のことば
本間 大智 著
四六判/224頁/1,760円
不安を感じたときや人間関係に悩んだときなど五つのテーマにあわせて、心を軽やかに解放してくれる名言を、仏教のお経・僧侶・信者の言葉から選んでわかりやすく解説。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393134573.html
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●摩多羅神 ――我らいかなる縁ありて
山本 ひろ子 著
A5判/400頁/口絵4/3,850円
ドラスティックな日本中世、大寺の奥深く〈闇〉に鎮座する異神に光を当て、その霊性のありかを探り、あわせて日本的精神性を展望する画期的論考。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393291337.html
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●考えるあなたのための倫理入門
メアリー・ウォーノック 著  高屋 景一 訳(※「高」は、正式にははしごだかの字)
A5判/176頁/2,200円
安楽死や中絶など身近なテーマから、「善い」とは何かを考える。イギリスが誇る女性哲学者による、定評ある倫理学の入門書。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393324035.html
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●発達障害からニューロダイバーシティへ ――ポリヴェーガル理論で解き明かす子どもの心と行動
モナ・デラフーク 著   花丘 ちぐさ 訳
A5判/392頁/2,640円
困っている子を救うニューロセプションの視点。発達のちがいや自閉症スペクトラム、トラウマをもつ子どもたちの“問題行動”を神経多様性から捉え直し社会情動的発達を促す。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393365687.html
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●伊英独仏 音楽用語辞典〈新装版〉
篠岡 恒悦 著
四六判/648頁/4,950円
クラシック音楽に欠かせない音楽用語、約18,000語を網羅。1語につき簡潔な訳語を示す実用的かつハンディな多言語辞典。重要語の5カ国語対照表、詳細な逆引き日本語索引付き。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393930434.html
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●音楽のある部屋 ――ディレッタントの流儀
伊藤 光昌 著
四六判/328頁/口絵1/2,420円
最先端の企業家にして熱烈な音楽愛好者が長年のドイツ滞在で聴いたコンサート&オペラの数々。1960年代から80年代の欧州の輝かしいクラシック・シーンを縦横無尽に語る。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393935248.html

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★近刊案内(2022年9月刊行予定)★ https://www.shunjusha.co.jp/search/next.html
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『禅語を生きる』
山川 宗玄 著
四六判/258頁/2,200円
さまざまな禅語を取り上げ、豊富なエピソードを交えて豊かに解説。パンデミックの時代を超えて、人生いかに生きるかのヒントが満載の、ユニークな「禅談」。
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『ハイエクといっしょに現代社会について考えよう』
蔵 研也 著
四六判/264頁/2,420円
混沌を極める現在、再び社会哲学者・自由主義者ハイエクの登場が待望されている。その経済理論、自由の社会哲学と市場メカニズムへの洞察の今日的意味をわかりやすく説く。

(※刊行時期は変更となる場合がございます。)

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☆ 重版情報 ☆
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漫画家・柴門ふみ氏(『ゆうゆう』10月号)紹介で話題! 「人間の本質は変わらない。そう教えてくれる本が好き。」
●貞慶 『愚迷発心集』を読む――心の闇を見つめる
多川 俊映 著  四六判/256頁/2,090円
鎌倉時代の名僧・貞慶はいかに悩み、何を信ずるに至ったか。流麗な現代語訳と詳細な解説で読み解く。略年譜付。【好評2刷】
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393135198.html

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□編集後記□
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 10年ほど前から続く空前の猫ブーム。その絶大な経済効果はアベノミクスになぞらえて「ネコノミクス」と呼ばれています。猫グッズは飛ぶように売れ、猫が登場する動画は圧倒的な再生回数を誇ります。「もの書く人のかたわらにはいつも猫がいた。」を掲げるNHK Eテレの「ネコメンタリー 猫も、杓子も。」も人気番組のひとつ。小説のなかに登場する「猫」は物語の鍵となることもしばしばです。
 けれど、作家の表現力に一役買うのは猫だけではありません。高山花子『鳥の歌、テクストの森』は、鳥の歌や声がどのように作家によって聞かれ、音楽家によって追求されてきたのかに迫る一冊です。大江健三郎、石牟礼道子、武満徹など……テクストの森の中で鳥の声に耳を澄ますように、そのひとつひとつを紐解いていきます。
 猫も鳥も、そして人も。生きものたちのバランスがとれている世界であることを願って。みなさまのご健康を心よりお祈り申し上げます。(A)
(※「高」は、正式にははしごだかの字)

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□春秋社 メールマガジン□ 毎月1回(月はじめ)配信

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■バックナンバー
【Vol.040】https://haruaki.shunjusha.co.jp/posts/5993(2022年7月1日 配信)
【Vol.041】https://haruaki.shunjusha.co.jp/posts/6020(2022年8月1日 配信)
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