メールマガジン Vol.066
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春秋社 メールマガジン【Vol.066】
2024年 9月 6日配信
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巻頭言
作曲家の西村朗氏が亡くなられて1年が過ぎた。傑作オペラ『紫苑物語』(2019年)を経て、ますます旺盛な創造の歩みを進めようとした矢先だった(享年69歳、翌日が70歳の誕生日)。
武満徹・三善晃・湯浅譲二・松村禎三ら偉大な前衛精神に続く次世代にあって、西村氏はつねに現代音楽シーンをリードしつつ、熱度の高い個性的な音響を紡ぎ出していた。伝統ある尾高賞を何度も得てシンフォニストとしての評価のみならず、つとに作曲職人としての至芸が称揚されてきてもいた。全音楽譜出版社の「西村朗作品目録」(2023年)を見ると、管弦楽曲から声楽曲・劇音楽まで多様なジャンルに及んでいて、その豊饒な結実に驚かされる。それでもなお、彼のあくなき創造精神は止むことはなかった。
他方、西村氏は、多くのメディアに登場し、クラシック音楽の解説や難解に映る現代音楽に関して、軽妙かつわかりやすい語り口で、お茶の間でも親しまれてきた。後進の指導はもとより、演奏の現場では協働の極意をさりげなく示されていたという。
とはいえ、なんといっても音楽じたいの魅力だ。初期作品から培われてきた独自のコンセプトによる斬新な音響創出の軌跡。ヘテロフォニーとかケチャといった技法や多彩な表現のイディオムを超えて、そこには音・声そのものによるメッセージが隠されている(ような気がする)。ときに聴き手の魂を揺さぶり、ときに繊細な傾聴を促す。音の根源性を屹立せしめるかのように。その実、作曲家西村朗が現代の、あるいは未来の聴衆に伝えたかったのは何だったのか。楽譜を眺めると、その筆致のめくるめく精妙さに圧倒されるばかりなのだが…。
弊社の9月新刊になる丘山万里子 著『西村朗しるべせよ――始原の声、大悲の淵』は、その意味で西村作品との真っ向勝負ともいうべき本格的評論であるとともに、作曲家西村朗の確かな肖像を克明に描いたものである(先にウェブ音楽・芸術評論誌『Mercure des Arts』にて4年にわたり連載された「西村朗考・覚書項」が完結し、並行して単行本化の作業が進められてきた)。
長きに亘る探究の末たどり着いた「西村像」を著者はこう述べる――「戦後登場する戦中派も含めての西洋音楽畑の日本の作曲家で、このような精神・肉体・風土を鮮明に強靭に持ち続け、いわゆる日本人性を対西欧として主張するのでなく、西欧近代自我意識など跨ぎ超え、哲学宗教思弁にとらわれず、あくまで自身の生理・リアリティに従い全宇宙開闢太古普遍の音の原水から発声し続けた作曲家を他に知らない」(エピローグより)。
本書には、全身全霊、根源音響を希求し続けてきた稀有な作曲家の核心に迫るさまざまな視点と解析が縦横無尽に張り巡らされている。
西村作品は残る。演奏され、鑑賞され、次世代に受け継がれていく。作品そのものが雄弁に物語る。願わくば、本書が西村氏が真に志向した音楽の内実を理解する上での道標にならんことを。(麦)
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■目次■
▼webマガジン「web春秋 はるとあき」
▼「じんぶん堂」好評連載中!
▼新刊案内(8月刊行)
▼近刊案内(9月刊行予定)
▼重版情報
▼営業部だより
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☆ webマガジン「web春秋 はるとあき」☆ https://haruaki.shunjusha.co.jp/
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●好評連載●
○「文字の渚」 岩切正一郎
文学、詩歌、戯曲、映画。古今東西の表現芸術のなかから、言葉の「変形」を読み解き、芸術の持つ力を再考する。
【第11回】イノベーション
○「カントの誤診――『純粋理性批判』を掘り崩す」 永井 均
近代哲学を確立したカント『純粋理性批判』を徹底的に読解し、批判することで、近代哲学を解体し、独在論哲学を賞揚する試み。
【第7回】
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★「じんぶん堂」好評連載中!★
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出版社と朝日新聞社による、“人文書の魅力を発信していくプロジェクト” 「じんぶん堂(powered by 好書好日)」では書籍紹介や読み物など、魅力的な内容をお届けしています。ぜひご覧ください。※毎週木曜日更新(月3回)
◇8月1日 公開◇
グローバル・ウェストと軍楽隊インヴェンション
◇8月8日 公開◇
国歌から生まれる理解、国歌から気づく未来
書籍はこちらから → 『[春秋社音楽学叢書]国歌――勝者の音楽史』
◇8月15日 公開◇
「イスラム世界の未来』
書籍はこちらから → 『イスラム世界に平和は来るか?――抗争するアラブとユダヤ、そしてイラン』
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★新刊案内(8月刊行)★ https://www.shunjusha.co.jp/search/new.html
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●『初期唯識思想と独我論』
源 重浩 著
A5判/488頁/6,600円
唯識思想に触れたことがあれば抱かざるを得ない独我論の疑い。本書は無著・世親のテキストに対する二大注釈の流れを検討し、独我論的系譜と非独我論的系譜に整理する。
https://www.shunjusha.co.jp/book/ 9784393113813.html
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●『ゲシュタルトコーチング――豊かな虚空』
ジョン・リアリー=ジョイス 著 / 陣内 裕輔 訳
四六判/420頁/3,960円
ゲシュタルト療法をコーチングに応用。パフォーマンスやウェルビーイングを高め、可能性を開く実践書。あらゆる瞬間、経験、関係性において自分らしく在ることの意味とは。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393365755.html
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●『恋愛しない私でも『源氏物語』は楽しめますか』
西原 志保 著
四六判/248頁/2,200円
『源氏物語』『紫式部日記』、そして現代のドラマや漫画を題材に、セクシュアリティやアイデンティティ、仕事とプライヴェートの境界、家族・結婚のあり方を再考する。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393441718.html
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♪楽譜〈新装版〉♪
『フォーレ全集1――夜想曲集』
美山 良夫、藤井 一興 編集・校訂・運指
菊倍判切付表紙/128頁/2,860円
夜想曲第1番 Op.33-1/夜想曲第2番 Op.33-2/夜想曲第3番 Op.33-3/夜想曲第4番 Op.36/夜想曲第5番 Op.37/夜想曲第6番 Op.63/夜想曲第7番 Op.74/夜想曲第8番 Op.84-8/夜想曲第9番 Op.97/夜想曲第10番 Op.99/夜想曲第11番 Op.104-1/夜想曲第12番 Op.107/夜想曲第13番 Op.119/フォーレのピアノ音楽とエディション/作品と演奏/校訂ノート
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393918548.html
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『フォーレ全集3――主題と変奏 即興曲集 前奏曲集 マズルカ』
美山 良夫、 藤井 一興 編集・校訂・運指
菊倍判切付表紙/136頁/2,860円
主題と変奏op.73/即興曲第1番 op.25/即興曲第2番 op.31/即興曲第3番 op.34/即興曲第4番 op.91/即興曲第5番 op.102/即興曲第6番 op.86bis/前奏曲 op.103(全9曲)/マズルカ op.32/フォーレのピアノ音楽とエディション/作品と演奏/校訂ノート
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393918562.html
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『スクリャービン全集3――練習曲集』
伊達 純、岡田 敦子 編集・校訂・運指
菊倍判切付表紙/112頁/2,860円
練習曲 Op.2-1/12の練習曲 op.8/8つの練習曲 op.42/練習曲 Op.49-1/練習曲 Op.56-4/3つの練習曲op.65/解説/曲目解説/スクリャービン作品表
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393918616.html
*今月の営業部イチオシ本*
●『人も鳥も好きと嫌いでできている――インコ学概論』
細川 博昭 著 / ものゆう イラスト
四六判/208頁/1,980円
なぜ心が通じあうのか。対人・対鳥関係や日常の中で形作られていく好きと嫌いのメカニズム。幸せな日々を共に過ごすために知っておいてほしいインコたちの心、感情、個性。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393421369.html
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★ 近刊案内(9月刊行予定) ★ https://www.shunjusha.co.jp/search/next.html
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『オウム真理教事件と解離性障害――中川智正伝』
久保田 正志 著
四六判/368頁/3,080円
中川智正はなぜオウム真理教事件に関わっていったのか。面会記録と裁判記録から、解離性障害により自身を制御できなくなった経緯を初めて明らかにした伝記。
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『シュタイナー宇宙的人間論――光、形、生命と人間の共振〈新装版〉』
ルドルフ・シュタイナー 著 / 高橋 巖 訳
四六判/256頁/3,080円
人智学の創立者・シュタイナーが最晩年に自由自在の境地で語った名講義。動物界、植物界、鉱物界の中に霊的な存在としての人間を位置づける大胆な試み。図版多数。
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『シュタイナー霊的宇宙論――霊界のヒエラルキアと物質界におけるその反映〈新装版〉』
ルドルフ・シュタイナー 著 / 高橋 巖 訳
四六判/272頁/3,300円
惑星の生成過程、黄道十二宮の起源、霊的存在の位階、宇宙における人間の役割など、『神秘学概論』ではまだ記すことのできなかった霊視内容をイメージ豊かに語る。
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『シュタイナーヨハネ福音書講義〈新装版〉』
ルドルフ・シュタイナー 著 / 高橋 巖 訳
四六判/280頁/3,300円
なぜイエスは「共同体を超えた愛」を説いたのか? 異色の福音書を、神智学の宇宙史的な意識進化のヴィジョンの下に読み解き、イエス・キリスト出現の意味を明かした名著。
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『情動、メディア、政治――不確実性の時代のカルチュラル・スタディーズ』
川村 覚文 著
四六判/320頁/2,750円
理性中心主義でなく情動を中心に人間を見る新しい考え方から、資本主義や権力による支配を乗り越える可能性を探るこれからの未来のためのカルチュラル・スタディーズ。
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『心理臨床における「あの世」のゆくえ』
石川 勇一、鈴木 康広、森岡 正芳、 井上 ウィマラ 著
四六判/260頁/3,850円
今まで心理臨床の立場から考察されてこなかった死後の世界を、ダンマ・セラピー、ユング心理学、臨床心理学、アビダンマ心理学のエキスパートが独自の視点から語り合う。
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『フランクル回想録〈新装版〉』
V.E. フランクル 著 / 山田 邦男 訳
四六判/232頁/2,530円
生きる意味を求め続けたヴィクトール・フランクルの90年の生涯。『夜と霧』『それでも人生にイエスと言う』では語らなかった自らの悲しみをもユーモアにつつんで綴った唯一の自伝。
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『西村朗しるべせよ――始原の声、大悲の淵』
丘山 万里子 著
四六判/618頁/6,930円
世界の現代音楽シーンをリードしてきた作曲家の豊饒な創造精神を綿密に読み解いた労作。死生観から宗教と芸術の関わりまで、西村朗の核心を見据える尖鋭な批評の眼差し。
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♪楽譜〈新装版〉♪ 計2点
・ドビュッシー集1
井口 基成 編集・校訂
菊倍判切付表紙/136頁/2,200円
二つのアラベスク/ベルガマスク組曲/ピアノのために/バラード/夢/ロマンティックな円舞曲/夜想曲/ダンス/マズルカ/スケッチブックから/仮面/ハイドン礼賛/レントよりもおそく/英雄のための子守歌
・バルトーク集2
山崎 孝 編集・校訂・運指 / 伊東 信宏 解説
菊倍判切付表紙/176頁/3,630円
15のハンガリー農民の歌/3つの練習曲/ハンガリー農民歌にもとづく即興曲/ピアノ・ソナタ/戸外にて/民謡旋律による3つのロンド
(※刊行時期は変更となる場合がございます。)
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☆重版情報 ☆ https://www.shunjusha.co.jp/news/nc3760.html
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『それでも人生にイエスと言う』
V.E. フランクル 著 / 山田 邦男 訳
四六判/224頁/1,870円
ナチスによる強制収容所の体験として全世界に衝撃を与えた『夜と霧』の著者が、その体験と思索を踏まえてすべての悩める人に「人生を肯定する」ことを訴えた感動の講演集。【75刷】
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393363607.html
NHK「こころの時代~宗教・人生」ヴィクトール・フランクル それでも人生には意味がある
毎月第3日曜日午前5:00~午前6:00初回放送・第4土曜日午後1:00~午後2:00再放送
https://www.nhk.jp/p/ts/X83KJR6973/blog/bl/peNqP4lG9Z/
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□営業部だより□
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現在放送中のNHK大河ドラマ「光る君へ」が引き続き話題となっております。書店でも、『源氏物語』の関連書籍をずらりと並べたフェアが見受けられます。
8月末に刊行の西原志保 著『恋愛しない私でも『源氏物語』は楽しめますか』は、そのフェアなどでも並べられそうな一冊ですが、タイトルにあるとおり、内容はこれまでに出ている『源氏物語』の関連書籍とひと味違います。
光源氏の妻でありながら、恋愛に消極的なことから「幼い」「空虚」な人物とされてきた『源氏物語』の女三の宮をはじめ、古典文学や現代のドラマ、漫画などを読み直すことで、現代に生きる人々のセクシュアリティやアイデンティティ、仕事とプライヴェートの境界、家族・結婚や親密圏のあり方などの問題を解きほぐしていくこの一冊。恋愛中心の人間観がいまだに「ふつう」とされていますが、本書を「光る君へ」とあわせてお読みいただくと新たな気づきを得られることうけあいです。(E)
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■バックナンバー
【Vol.065】 2024年 8月 2日 配信 → https://haruaki.shunjusha.co.jp/posts/8257
【Vol.064】 2024年 7月 5日 配信 → https://haruaki.shunjusha.co.jp/posts/8189
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