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メールマガジン Vol.045

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 春秋社 メールマガジン【Vol.045】
    2022年 12月 5日配信
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 巻頭言!
 悟りをひらいた立派な禅僧であった巌頭和尚が、山賊に首を切られて無惨な最期を遂げたことは、修行中の白隠禅師を大いに悩ませたといいます。
「仏道を修行してもこんな最期を遂げるなら、仏道は何のためにあるのか!」
 そう思うのも無理からぬことかもしれません。
 お釈迦さまがまだこの世にいらっしゃるときからそうでした。
 お釈迦さまの高弟・目連尊者は異教徒に滅多打ちにされて殺されます。お釈迦さまの最大の後援者のひとり、コーサラ国のパセーナディ王は、旅に出ているとき、息子の瑠璃王子にクーデタを起こされて、都に帰ることもできず客死し、祇園精舎の土地を寄進したことで知られる祇陀王子も瑠璃王子に殺され、お釈迦さまの出身部族である釈迦族も、瑠璃王子によって皆殺しにされたといわれます。
 お釈迦さま最大の後援者のもうひとり、マガダ国のビンビサーラ王の最期も悲惨です。息子の阿闍世王子に反逆され、監禁されて食事を与えられず、餓死させられてしまうのです。
 王妃である韋提希夫人は夫を死から救おうと、しかし表だって食事を運ぶことはできませんから、体中に蜜を塗って、これをひそかに舐め食べさせることで、王のいのちをつなごうとしますが、いつまで経っても王が死なぬことを不審に思った阿闍世王子に見つかり、殺されることは免れたものの、一生幽閉されることになってしまいます。
 夫を殺され、みずからもわが子に幽閉された夫人の嘆きはいかばかりか。絶望し、泣き叫び、そして、お釈迦さまにみずからの苦悩を訴えます。夫人は幽閉されているので、お釈迦さまは当然そこにはいないのですが、遠くから神通力で夫人の嘆きを聞き、夫人の前に姿を現して、教えを説きます。これが「観無量寿経」です。
 お釈迦さまはどんな教えを説いたのか?
 それは極楽浄土の観想です。太陽が西に沈むのを見ては黄金に輝く西方の極楽浄土を思い、清冽な水を見ては極楽の瑠璃の大地を思い、極楽の宝の木を思い、極楽の建物を思い、菩薩の姿を思い、阿弥陀仏のお姿を思い……しかし、ただ思うというのではありません。目を開けていても、つむっていても、立っていても、座っていても、要は、いつでもどんなときでも眼前にありありと、木の枝、柱の飾り、指先、眉の毛、ひとつひとつの細部までがはっきりと、まるで実際にすぐ目の前にあって見えているようにならなければいけないというのです。
「そうすれば、あなたは極楽へ行ける」
 お釈迦さまの言葉を信じて、夫人は教えを実践し、やがてついに救いを得た、といいます。
 しかし実のところ、夫人の境遇は何も変わっておりません。あの日からずっと、どこか奥深い部屋に幽閉され、一日中孤独なまま、誰かと言葉を交わすこともなく、同じ部屋のなかで、何の変化もない日々を送るだけです。違うのは、いま夫人の目に映るのは、見慣れた部屋の風景ではなく、極楽の絢爛たる情景です。宝石の鏤められた極楽の木には、色とりどりの鳥が美しく囀り、どこからともなく天人の奏でる甘美な楽の音が響き、華麗な宮殿には、勢至菩薩が、観音菩薩が、阿弥陀如来がましまして、慈悲に満ちた優しいお顔で、夫人に向かって微笑んでいらっしゃる。
 これが救いなのでしょうか。お釈迦さまが神通力が使えるのなら、ひそかに夫人をたすけだしてもよかったのではないでしょうか? 
 しかし、そうはならなかったのです。お釈迦さまがご自分の出身部族が虐殺され滅亡するのを止められないように。 いや、ひょっとすると、幽閉された夫人の前に現れたお釈迦さまも、夫人の願望が見せた儚い幻にすぎなかったのかもしれません。
 「観無量寿経」は、「無量寿経」「阿弥陀経」とともに浄土三部経としてまとめられています。このたび小社が刊行した 正木 晃先生の『現代語訳 浄土三部経』は、読みやすくわかりやすい文章で、これらの経典の精髄を伝えてくれます。
 人生にはどうにもならないことがあります。何をしても状況を変えられず、絶望にさいなまれることがあります。そんなとき人が救いを求めるとしたら……。ぜひお読みいただければと思うのです。(K2)

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■目次■
▼webマガジン「web春秋 はるとあき」
▼「じんぶん堂」好評連載中!
▼新刊案内(11月刊行)
▼近刊案内(12月刊行予定)
▼編集後記

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☆webマガジン「web春秋 はるとあき」☆ https://haruaki.shunjusha.co.jp
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○好評連載○
〇「驚愕の雅楽」 カニササレアヤコ
「みやび」だけでは終わらせない奥深い雅楽の世界を、雅楽芸人がご紹介します。
【第2回】カワイイ雅楽 → https://haruaki.shunjusha.co.jp/posts/6708
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〇「アルス・ピヤニカ――鍵盤ハーモニカの楽堂」 南川 朱生(ピアノニマス)
SNSやメディアで注目のプロ鍵盤ハーモニカ奏者による、長年蓄積した研究の集大成。
【第11回】世紀末の鍵盤ハーモニカ → https://haruaki.shunjusha.co.jp/posts/6739

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★「じんぶん堂」好評連載中!★
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出版社と朝日新聞社による、人文書の魅力を発信していくプロジェクト「じんぶん堂(powered by 好書好日)」では、著者みずから語る書籍紹介や読み物など、魅力的な内容をお届けしています。ぜひご覧ください。 ※毎週木曜日更新(月3回)

11月3日 公開◇
「自由の復権、ハイエク・ルネッサンス 前篇」→ https://book.asahi.com/jinbun/article/14742985
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◇11月10日 公開◇
「自由の復権、ハイエク・ルネッサンス 後篇」→ https://book.asahi.com/jinbun/article/14745790

→ 書籍はこちらから『ハイエクといっしょに現代社会について考えよう』
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393611180.html

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☆新刊案内(11月刊行)☆ https://www.shunjusha.co.jp/search/new.html
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●現代日本語訳 浄土三部経
正木 晃 著
四六判/320頁/2,750円
浄土宗・浄土真宗の基本経典である『阿弥陀経』『無量寿経』『観無量寿経』の三経を、難解な仏教用語を避けて現代語訳。経典の成立過程や信仰の実態についても解説。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393113615.html
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●禅の調べ ――はじめて唱う白隠禅師「坐禅和讃」
細川 晋輔 著
四六判/280頁/口絵2/1,980円
衆生本来仏なり 水と氷の如くにて――江戸時代より今日まで広く親しまれている白隠禅師「坐禅和讃」。四十四句に込められた真心を、身近な比喩と共にあたたかに読み解く。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393142899.html
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●お守りを読む ――日本人は何を願ってきたのか
鳥居本 幸代 著
四六判/184頁/2,200円
人はなぜお守りをもつのか。千年をこえる歴史の中で日本人の精神を涵養してきたお守り。伝承や古典、史料等からルーツと変遷を辿り、祈りと願いの文化を探る。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393482292.html
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●マザー・グースの音楽帖
志田 英泉子 著
A5判/144頁/2,200円
世界中で最も有名な英国発、童謡の世界。生きた伝承にもとづく28曲の楽譜(ピアノ伴奏)とエッセイの楽しみ。リズムとイントネーションに着目して遊びながら英語力がつく。
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393935255.html

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★近刊案内(2022年12月刊行予定)★ https://www.shunjusha.co.jp/search/next.html
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『真宗入門』[創業105周年記念復刊]
鈴木 大拙 著  佐藤 平 訳
小B6判/176頁/1,870円
絶対と相対、一と多、霊性といった観点から、アミダや名号、浄土、他力、自然法爾、妙好人などの真宗の代表的なトピックを、欧米人に向けて分かりやすく講義した講義録。
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『剣と禅』[創業105周年記念復刊]
大森 曹玄 著
四六判/272頁/口絵4/2,750円
「剣の道」とは、勝敗にかかわらず、生死を越えて真の人間を完成する「人間の道」である。古来の剣客たちが、いかなる苦修研鑽を経て、剣禅一致の妙境に悟入したかを説く。
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『山岡鉄舟』[創業105周年記念復刊]
大森 曹玄 著
四六判/288頁/口絵8/2,750円
剣・禅・書の達人であり、江戸城無血開城の立役者でもあった幕末の偉人「山岡鉄舟」。明治維新後も多くの人々に影響を与え続けた鉄舟の行実と生涯を余すところなく描く。
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『〈私〉の哲学 を哲学する〈新版〉』
永井 均/入不二 基義/上野 修/青山 拓央 著
四六判/320頁/2,970円
入不二提案と呼ばれる永井哲学にとって最重要な指摘が行われた書が待望の復刊! 永井哲学の内包、時間、現実、ロゴス、他人、意識などのトピックをめぐる哲学的四重奏。
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『美学の練習』
津上 英輔 著
四六判/280頁/2,860円
なぜ人は美・芸術に惹かれるのか。過去の学説や標準的理論を通してではなく、読者に自ら美と芸術について思索することを促し、人生を豊かにする手がかりとなることを目指す。
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『グローバル現代の比較思想 ――実践的英知の哲学へ』
橋 ひさき 著(※ひさきは木へんに令)
A5判/312頁/4,180円
発展する自然科学や混迷する世界情勢の中で共通の立脚点や斬新な視座の獲得はいかに可能か。龍樹と論理学、西田と量子力学、禅とキリスト教などスリリングな比較から探究。
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『ZEN呼吸――「健康」は白隠さんから』
椎名 由紀/横田 南嶺 著
A5判/192頁/1,760円
「健康」の源流は、江戸の禅僧・白隠にあり。身心の不調が見事に消え去る、日々の呼吸と姿勢のあり方とは? 今こそ身に付けたい、『夜船閑話』に学ぶ真の健康。
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『積極的に治さない瞑想箱庭療法』
大住 誠/朝倉 新 著
四六判/304頁/2,750円
心理療法に伴う侵襲性という副作用に注目し、瞑想を取り入れることで、治療者が積極的に治そうとしない、患者の自己治癒力を活かす、画期的な箱庭療法の理論と実践が誕生。
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楽譜『カール・チェルニー 12の前奏曲とフーガ ――「フーガ演奏教本」作品400』
菊倍判/144頁/3,630円
バッハを意識しつつロマン派の響きを加えた12組のプレリュードとフーガ。ピアノ演奏技術の最難関であるフーガ演奏技法の熟練と完成をめざす、19世紀ピアニズムの知られざる金字塔。
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【春秋社 音楽学叢書 創刊】
『音楽学への招待』
沼野 雄司 著
四六判/296頁/2,860円
大作曲家の「駄作」からプロレスラーのテーマ音楽、さらには「モーツァルト効果」まで、さまざまな対象を歴史・社会学・心理学など多彩な切り口で考察する。刺激的な入門書。
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『音楽のなかの典礼 ――ベートーヴェン《ミサ・ソレムニス》はどのように聴かれたか』
清水 康宏 著
四六判/296頁/3,850円
「異化された大作」(アドルノ)であり、しばしば“非典礼的な教会音楽”とされた《ミサ・ソレムニス》の受容史を通じて、音楽/芸術と宗教/教会の複雑な関係性に迫る。
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『CDブック 声明 ――天台声明と五台山念仏へのいざない』[創業105周年記念復刊]
天納 傳中 著
A5判/112頁/CD62分/3,300円
声明の歴史や難解な声明楽理などをわかりやすく解説。顕教声明の代表作の一部を収録したCDを付した声明入門。

(※刊行時期は変更となる場合がございます。)

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□編集後記□
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 ことしも残すところあと一ヶ月。陰暦の十二月は「師走」。「走る」と言えば、サッカーワールドカップがかなりの盛り上がりを見せています。日本代表が、優勝経験のある強豪国ドイツとスペインに勝利したことで、人びとの期待は否応なしに高まっています。諦めずに最後まで走り続けた者たちが掴み取った「勝利」。いまも語られる「ドーハの悲劇」が「ドーハの歓喜」として上書きされた瞬間はあまりにもドラマチックでした。ちなみに、両試合の舞台となったハリーファ国際競技場は2011年にAFCアジアカップの決勝が行われ、日本がアジアの頂点に立った会場であり、縁起と相性がよかったのかもしれません。
 ところで、このハリーファ国際競技場以外のスタジアムはすべて、この大会のために建設されたそうです。このことが、世界から非難を浴びる出稼ぎ労働者問題を生んだことは容易に想像がつきます。また、カタールという国の少数派に対する人権問題も各国の批判を集めています。ボイコットの意思を示すために大会の報道をしないと宣言する地方紙まで出てきたフランスをはじめ、彼らにとって中東の問題は、地理的な距離の近さだけでなく、かつて自国が抱えてきた問題、そしていまに続く移民や人権問題を映す鏡なのでしょう。だからこそ看過することができないのです。
 欧米と中東における移民、難民問題に加え、日本が直面している課題など、人の移動という観点で社会をみつめる論考、早尾貴紀『希望のディアスポラ――移民・難民をめぐる政治史』をお読みいただくと、今大会がなぜ世界で批判されているのか、それを学ぶ上での参考になることと思います。
 スポーツと政治や社会、人権問題などが切り離せなくなってきている現代。起きている事象を報道せず、現実から目を背けることは決して許されませんが、一方で、活躍する選手たちを純粋に応援し、心から楽しめる状況こそが本来のあるべき姿ではないかとも考えさせられます。いよいよ今夜はじまる、日本代表にとってまだ見ぬ景色へと駆け上がるための挑戦。多くの人が喜びを分かち合える瞬間となることを願ってやみません。(A)

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■バックナンバー
【Vol.043】https://haruaki.shunjusha.co.jp/posts/6697(2022年10月3日 配信)
【Vol.044】https://haruaki.shunjusha.co.jp/posts/6762(2022年11月1日 配信)
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