メールマガジン Vol.043
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春秋社 メールマガジン【Vol.043】
2022年 10月 3日配信
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巻頭言!
ふたつの国葬が終わりました。イギリスのエリザベス女王の国葬と、安倍元総理の国葬儀です。
エリザベス女王の国葬は、伝統にのっとった壮麗な式で、イギリスでは国王が国教会の長ということもあって、バリバリのキリスト教式でした。水兵たちが女王の棺車をウェストミンスター寺院まで運ぶところからはじまり(イギリス海軍はロイヤル・ネイヴィー=王立海軍であり、建前上王室に属するので、こういうときに出てくるのだという話は、今回はじめて知りました)、パイプオルガンと合唱隊の荘厳な音楽のなか、粛々と式が進みます。チャールズ三世新国王も、アン王女も、ウィリアム王太子も礼装の軍服で、トラス新首相がヨハネ福音書の一節を朗読したときには「一国の首相が、これをやっていいの?」と驚いたくらい、あまりにも国家色とキリスト教色が強くて、正直、エリザベス女王個人をあまり感じるものではありませんでした。女王の側近く仕えたバクパイプ奏者の哀愁溢れる演奏が胸に響いたくらいでした。
対して安倍元首相の国葬儀は無宗教式で、祭壇がしつらえられた武道館の内部は空漠として、空虚なほどでした。富士山を象ったという祭壇には、安倍氏の遺影が掲げられ、安倍氏が諸外国から受けたものらしい勲章も並べられていましたが、気にとめる人もあまりいないようで、音楽が流れているときでさえ、奇妙な静謐が支配していました。
これは政府が悪いとかいう話ではなく、古来、死は宗教が司るものでしたから、こういう大きな儀式が無宗教になると、伝統も意味づけもない、のっぺりした空間に感じられるのは仕方がないのでしょう。演奏される音楽も、宗教曲はNGでしょうから、歌謡曲なども使われていて、それなりにふさわしい音楽だけれども、「何か違う」といった印象を受けてしまったのは申しわけないかぎりです。
ただし、――すでに多くの人が言及していますので今更ですが――菅義偉前首相の弔辞は異色でした。弔辞の定型句を使わず、みずからの感情を露わにして、個人的な思い出を訥々と、故人に語りかけるように語ったのです。拉致問題をきっかけに出会ったこと、2度目の総裁選出馬を渋る安倍氏を、銀座の焼き鳥屋で3時間かけて口説いたこと、主を失った議員会館の安倍氏の部屋の机には、1冊の本、岡義武著の『山県有朋』が残されていて、端が折られた読みかけの頁に、マーカーで線が引かれていたのは、暗殺された伊藤博文を偲ぶ山県の歌……。
「恋文」と評した人もいましたが、弔辞が終わると会場からは拍手が湧きあがりました。葬儀で拍手は憚られることですが、それでも拍手をせずにはいられない弔辞でした。今回の国葬儀には賛否がありますが、この弔辞だけは、私の記憶にずっと残りつづけると思います。
ところで、エリザベス女王の葬儀が終わり、棺がウェストミンスター寺院を出て行くとき、オルガンの演奏を聞いて、「おや?」と思いました。バッハの幻想曲ハ短調(BWV562)だったからです。
女王の国葬は、ヘンリー・パーセルから最近の作曲家まで、イギリスの作曲家の音楽が使われていました。でも、バッハはもちろんドイツ人で、教派はルター派です。どうしてバッハ?
そのあと私は、ウィンザー城のセント・ジョージ・チャペルで行われた埋葬式もネット中継で見ていたのですが、式が終わり、参列者が退席するときに演奏されたのも、やはりバッハでした。前奏曲とフーガ・ハ短調(BWV546)。
バッハが選択された理由はわかりません。しかし、式次第が終わったあととはいえ、国葬で演奏されるのですから、曲目は選び抜かれているはずで、少なくともバッハの音楽が、国や教派を超えた普遍性を持っていると認められているからであるのは間違いないと思います。
バッハの普遍性は、物理学者・佐治晴夫先生も、宇宙に存在するであろう知的生命体に向けたゴールデンレコードを、惑星探査機ボイジャーに搭載するとき、平均律の1曲を収録してもらったほど。つまり人類ではない知的生命体でも、バッハの音楽の構築美はわかるはずだ、ということなのです。
私ども春秋社がこのたび刊行した『新版バッハ・ピアノ作品集』(全6巻)は、伝統と定評ある井口基成先生の「井口版」に、遠山裕先生が最新の研究をもとにした充実した解説を加え、原典や校訂の歴史の情報、さらに現代のピアノで演奏するための実践的アドバイスも付した盛りだくさんの自信作です。バッハの普遍的な音楽を、ぜひこの『新版バッハ・ピアノ作品集』でお楽しみいただきたいと願うしだいです。(K2)
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■目次■
▼webマガジン「web春秋 はるとあき」
▼「じんぶん堂」好評連載中!
▼新刊案内(9月刊行)
▼近刊案内(10月刊行予定)
▼重版情報
▼編集後記
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●好評連載●
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「自分なりのワークを創造的に作り出す上での何らかのヒントになれば幸いである。」
【第六回】割り稽古に入る前の予備的ワーク その2 → https://haruaki.shunjusha.co.jp/posts/6092
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20世紀の日本の建築を読み解き、未来に継承するための建築史入門。
【第6回】平和を創りだす――平和記念公園および広島平和記念資料館本館 → https://haruaki.shunjusha.co.jp/posts/6239
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★「じんぶん堂」好評連載中!★
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出版社と朝日新聞社による、“人文書の魅力を発信していくプロジェクト”「じんぶん堂(powered by 好書好日)」では、著者みずから語る刊行書籍紹介や読み物など、魅力的な内容を毎週お届けしています。ぜひご覧ください! ※毎週木曜日更新(月3回連載)
◇9月1日 公開◇
「SPレコードが開く歴史の扉 『コルトー=ティボー=カザルス・トリオ――二十世紀の音楽遺産』[上]」
https://book.asahi.com/jinbun/article/14685465
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◇9月8日 公開◇
「今だから楽しく聴けるSP時代の名演 『コルトー=ティボー=カザルス・トリオ――二十世紀の音楽遺産』[下]」
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★近刊案内(2022年10月刊行予定)★ https://www.shunjusha.co.jp/search/next.html
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『チベット史〈新装版〉』
ロラン・デエ 著 今枝 由郎 訳
四六判/504頁/6,600円
神話時代から現在まで、特に近現代に重点をおいた、激動のチベット通史。仏教を精神的中核とする民族特有の世界観・歴史観をあます所なく語り尽くす画期的大著。
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『インド密教史』
田中 公明 著
四六判/312頁/3,300円
最新の考古学的知見も取り入れ、インド密教の原初形態が現れてから、『大日経』『金剛頂経』の成立を経て、『時輪タントラ』の後期密教に至るまでをたどる格好の概説書。
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『公共宗教論から謎めいた他者論へ』
磯前 順一 著
A5判/424頁/4,950円
東日本大震災後の宗教と公共論で欠けていた神仏や天皇といった公私の領域を問わずに影響を及ぼす「謎めいた他者」と、その影響の下での公共空間と主体の形成を論じる。
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『独在性の矛は超越論的構成の盾を貫きうるか ――哲学探究3』
永井 均 著
四六判/308頁/2,310円
現に私が私であることが無根拠なら、急に違う人が私になることもできそうだが、そこに客観的世界を構成する力との競い合いが始まる。カントも知らない二律背反に導く一冊。
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『AIとオープンソースで真贋を見る目を養う ――素人の発想力・玄人の技術力』
武藤 佳恭/谷口 敬太 著
四六判/264頁/2,200円
今やさまざまなプログラムやデータがオープンにされ、素人も玄人も同じ情報を持てる時代。複数のデータを突き合わせることで、問題の本質を剔抉する。ScienceやNature等の国際ジャーナルに多くのコメント論文を掲載している武藤流インテリジェンスの原点が明かされる。
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『魯迅を読もう ――〈他者〉を求めて』
王 欽 著
四六判/296頁/2,860円
中国近代文学の第一人者にして、多くの人がその名を知っている魯迅の作品を読む。広範囲に及ぶ文学の知識や素養を踏まえながら、今こそ問うべき「文学の意義」に迫る。
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『ダンテの『神曲』による12の歌曲集』
伊能美智子 作曲 平川祐弘 訳詞 藤谷道夫 訳詞・構成・解説
A4判/56頁/2,420円
西欧文学、最高の古典に音楽を付した声楽作品。斯界の第一人者による訳詞、12曲を厳選。取り上げる訳詞への詳細な解説付き。
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『チェンバロ大事典』
日本チェンバロ協会 編
A5判/496頁/4,400円
チェンバロやクラヴィコードなど歴史的な鍵盤楽器をとことん知るための一冊。楽器の仕組みや様式を豊富な図とともに解説。さらには演奏法など実践で役立つ情報も満載。
(※刊行時期は変更となる場合がございます。)
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☆ 重版情報 ☆ https://www.shunjusha.co.jp/news/n49035.html
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●わが子がギフティッドかもしれないと思ったら――問題解決と飛躍のための実践的ガイド
ジェームス・T・ウェブ 他著 ⻆谷 詩織 訳
四六判/528頁/3,300円
“天才児”などともてはやされる、1つ以上の特定の領域で突出した能力をもつギフティッド児とその親は、世間一般の無理解により有効な教育・支援を受けられず、日常的に多くの困難に直面している。育てづらく、生きづらいギフティッド児とその親、支援・教育者のバイブル。【好評7刷】
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393373309.html
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□編集後記□
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新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い中止を余儀なくされていた「神保町ブックフェスティバル」の、3年ぶりの開催が決定いたしました! かつては10万人以上の来場者が訪れ、同時期に開催される古書店街の古本まつりと合わせて大きな賑わいを見せる、本の街・神保町の秋の一大イベントでした。
読者のみなさまに3年ぶりに直接お会いできることが楽しみである一方、感染症の不安や懸念、課題はまだ残されています。今年は感染症対策として、オープニングセレモニーやパレードの中止、飲食の出店不可などが告知されています。
ぜひご来場ください、とは申し上げにくい現状ではありますが、出店各社も運営も十分に気をつけて取り組む所存でおりますので、10月29日(土)・30日(日)の両日は、神保町にお越しいただければ幸いです。みなさまのご来場を心よりお待ち申し上げております。(A)
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■バックナンバー
【Vol.041】https://haruaki.shunjusha.co.jp/posts/6020(2022年8月1日 配信)
【Vol.042】https://haruaki.shunjusha.co.jp/posts/6277(2022年9月1日 配信)
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