あなたに幸福になってほしい幸福論/五十嵐沙千子編『幸福をめぐる哲学者たちの大冒険! 15の試論』
哲学は何よりも真理を探究する営みであり、自分の人生を顧みず真理のために邁進しなければならない……のだろうか? いや、哲学者だって幸せになりたいのだ。そうしたコンセプトで書かれた『幸福をめぐる哲学者たちの大冒険! 15の試論』(五十嵐沙千子編)から「まえがき」を紹介する。
まえがき
この本には、古今東西のたくさんの哲学者が登場する。どうすれば幸福になれるのかを考えた哲学者たちである。他人事として考えたのではない。なぜ自分が幸せではないのか、幸せになるには自分はどうすればいいのか、彼らは本当に苦しみながら考えたのである。哲学者だって幸せになりたかったのだ。
その哲学者たちの考えた結果を、読む人に伝えたいと思ってこの本は書かれた。
とはいえこの本を読めばお金持ちになったり人生の勝者になれたりするわけではない。むしろこの本は、たとえお金が入ってこなくても、病気でも、会社や学校で評価されていなくても、子どもが言うことを聞いてくれなくても、それでもあなたは幸福になれるのだということを、あるいはそれでもあなたが幸福になるにはどうすればいいのかということを書いているのである。
そう考えるとこの本は風邪の薬のようなものなのかもしれない。今のあなたの苦しみを少しでも楽にしようとして風邪薬は作られている。この本も同じ思いで作られている。ほんの少し生き方を変えれば、ほんの少し見る見方を変えれば、世界の見え方は変わる。あなたの住む世界の景色は確実に変わるのだ。
まずは面白そうだと思った章を読んでいただきたい。もしピンとこなかったら別のページをめくればいい。薬にも相性はあるのだから。でも、この本の中にはきっと、今のあなたに「効く」薬があるはずである。
さて、実際にこの本を書いたのは十二人の哲学者・思想家である。中には仏教研究の大御所もいれば古代ギリシア哲学の碩学もいるが、みんな、あなたと同じ空気を吸いながらそれぞれの場所でそれぞれの生活を営んでいる人間たちである。そしてやっぱり、あなたと同じように泣いたり笑ったりしながら暮らしている途上の人間たちなのである。その私たちが「人間はどうすれば幸福になれるのか」を書くのだから、正直に言えば、どう書いていいかわからなくなって絶望のあまり自分のバカな頭を殴りたくなったこともしょっちゅうあった。でも、私たちはただ単に自分の研究している思想の紹介なんかをしたいわけではなかったのだ。自分の研究してきた哲学者たちの、斬れば血の出るような生きた声を伝えたかった。そしてどんな人にもわかってもらえる文章を書きたかった。そして何よりも、読んでくれる人に、どうしても(少しでも)幸せになってもらいたかったのである。
掛け値なしに言って、私たちにとってこの本を書くのは本当に困難な冒険だった。でも、書き終えた今、これを書いた私たちが、書く前よりも確実に幸福を「知る」ことができたこと、そして、書く前よりも少し幸福になれたことは事実である。
幸福になることは一つの旅である。私たちは今生きている人生の中で、幸福になるために一歩一歩歩いているのだ。あなたが、あなたの人生の中で、幸福をあきらめず、私たちと一緒に幸福への旅を続けてくれることを、私たちは心から願っている。
人生は幸福への旅である。