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7つの禅語から紡ぎ出される生き方のヒント/山川宗玄『禅語を生きる』

 ありのままに生き切った禅者の言葉には生きることへの多くの智慧が詰まっています。この語り継がれてきた禅語の中から7つ選び、現代人のための新たな指南書として書かれたのが『禅語を生きる』(山川宗玄著)です。臨済宗正眼寺で長らく厳しい修行を積まれた老師の清冽な語り口が魅力の本書から、冒頭の部分を紹介したいと思います。


 まずは第一講、七つの禅語を選んできました。

 最初は、「惺々著(せいせいじゃく)」。

 二番目、「坐久成労(ざきゅうろうじょう)」。

 三番目、「十年帰ることを得ざれば、来時(らいじ)の道を忘却(ぼうきゃく)す」。

 四番目、「空手(くうしゅ)に来(きた)って、空手に去る」。

 五番目、「一重(いちじゅう)山尽きて又(また)一重、話り尽くす山雲海月(さんうんかいげつ)の情(じょう)」。

 六番目、「行(ゆ)いては到る水の窮(きわ)まる処(ところ)、坐しては看(み)る雲の起こる時」。

 七番目、「天なにをか言うや、四時(しじ)に行われ、地なにをか言うや、万物(ばんぶつ)生ぜり」。

 

 今日より〝禅語を生きる〟と題して、みなさんと共に禅語を学ぶ会を始めたいと思います。

 堅苦しい禅語に馴染んでいただき、その背景の禅の世界を少しでも知ってもらえればと願っております。

 さて「一寸坐れば一寸の仏」といつも申しておりますが、少しの間でも座を組んで坐る。その姿がそのまま仏さま。

 仏さまというのは、あちら側にある世界だとか、仏壇の中の本尊さまという意味で取られては困ります。本当の、みなさんお一人お一人のすがたが仏です。坐禅をすることで、その世界へ帰っていただくのです。

 これから禅語とその周辺の話をしてまいりますが、根本的にはこのために今回の機会をいただいたのです。

 

「惺々著」

 朝、目覚めのいい人とそうでない人があると思いますが、目覚めたら、みなさんはまず何をしますか。昔、瑞巌師彦(ずいがんしげん)和尚という方が唐の時代に活躍されましたが、この方は朝、目覚めると、「主人公」と自らに問われたそうです。そして、自分で「はい」と答える。「目が覚めたかね」、「はい」。「今日も人に騙されるなよ。頑張って生きよ」、「はい、はい」 と、それを毎朝繰り返された。この和尚、それ以外、格別なことは何もない。弟子に特別な禅の話をするとか、厳しい指導もない。これだけでしたが、この言葉が聞きたいがため に、たくさんの雲水が来て修行をしていたそうです。

 原典で示せば、「瑞巌(ずいがん)の彦(げん)和尚、毎日、自ら主人公と喚(よ)んで復(また)自ら応諾(おうだく)す。乃(すなわ)ち云(いわ)く、 惺々著(せいせいじゃく)。諾。他時異日(たじいじつ)、人の瞞(まん)を受くること莫(なか)れ。諾諾」です。

 ここに「惺々著」と出てきます。「惺」は、りっしんべん(忄)に星ですね、星がまたたいているように目がパチパチと覚めている。「著」というのは接尾語で、あまり意味がありません。目覚めているか、と強調する言葉です。大事なのは「惺々」です。

 お釈迦さまは、「仏法とは何か」ときかれたとき、こう答えられた。「目覚めておれ」と。 この一言で仏法そのものを表していると言えます。「惺々著」と全く一緒です。だから、瑞巌の彦和尚は、自らを「主人公」と呼ぶのです。朝一番の言葉が「主人公」。ここがポイントです。その主人公は、目覚めていないと、どこかへ行ってしまうのです。

 ところで、寝ているときは、目覚めているのです。みなさん、「えっ」という顔をしましたが、目が覚めている顔をしていても、実際は寝ていたというような体験はありませんか。つまり、われわれは一生懸命に何かをしているつもりでも、意識がどこかへ飛んで、何か違うことを考えていて集中できない。よくそういうことがあります。そうではなく集中できている状態を「惺々著」というのです。極端なことを言えば、寝ていることに集中できていれば、それは「惺々著」です。

 本当に熟睡している時に誰かが手をつねったり、周りでさわいだりしても、目が覚めないでしょう。そういう睡眠を取ることができれば、昼間も目がぱっちりと覚めている。半分寝て、半分覚醒している、うつらうつらの状態が一番よくない。そんなときには「魔が入る」といいます。うつらうつらというのは、集中しているのと、集中していないのと、その間(あわい)。そこに魔物が入る。病気も、忙しくてバタバタ動いているときにはかからないものです。しかし、一段落してふっと気が抜けて、一日、二日とぼんやりしていると病気になりやすい。だから常に「惺々著」、目覚めていなさいということです。(p.4~8)

 

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