鋼鉄の図書室——メタルで文学を読むII
ウィリアム・ブレイクだったらロックで何をやったか、彼がロックを好きになっていたか、嫌いになっていたかすら、想像もつかないね。
――ブルース・ディッキンソン[1]
読書三余
前回はヘヴィー・メタルに参照される二大作家、トールキンとラヴクラフトについて書いた。もちろん題材となる文学はそれだけではない。
だが、総じて言えば恋愛をテーマとした喜劇や抒情詩が扱われることはあまりなく、宗教や倫理、生死に関わるもの、叙事的なもの、神秘的・空想的なものが好まれる傾向がある。当然のことながら欧米を中心に、英語を用いて発展してきた音楽なので、英米文学にリファレンスが多い。
逆に言えば、非欧米圏のバンドが自文化らしさを出そうとする際に、その文化に属する文学が採用されることもある。前回扱った日本の人間椅子がその代表である。その場合もやはり欧米の場合と志向は似ており、喜劇や軽い恋愛ものはあまり登場しない。
言うまでもなく、世界中にヘヴィー・メタル・バンドは無数におり、それぞれの歌詞の題材を網羅することできない。今回扱うものの他にも、文学をテーマにした作品は有名無名を含めて数多くあることは承知している。だが今回は、前回のファンタジーの重鎮とは異なった観点から文学を扱っているものを、あくまでサンプルとしていくつか紹介することで、ヘヴィー・メタルの歌詞世界の一端を見てみたいと思う。
欧州文学とメタル
ヘヴィー・メタルという音楽は大衆文化に属すると言って良いが、ジャケットで用いる絵画や、クラシック的な楽曲のアレンジなど、ハイ・カルチャーを取り込む傾向がある。より正確に言えば、ハイ・カルチャーをそのまま引用するというよりは、そこに含まれる世俗的な要素をエンターテインメント化していると言えるだろう。
文学の場合も同様である。
たとえばアイアン・メイデンの10分を超える大作「暗黒の航海(Rime of the Ancient Mariner)」(1984)は、サミュエル・テイラー・コールリッジの詩「老水夫行」(1798)を題材としたものだが、原詩のバラッド風の構成(1連4行で、各連の中で偶数行のみ脚韻を踏む。また弱強格が多用される)は失われて、あくまで一つの物語として、ストーリーを歌うことに専念している。アイアン・メイデンには他にも文学を題材とする作品が多い。
そのアイアン・メイデンのヴォーカルであるブルース・ディッキンソンは詩人のウィリアム・ブレイクのいくつかの作品をテーマにソロ・アルバム『ケミカル・ウェディング』(1998)を発表している。ここではブレイクの預言的な詩世界と、アンドレーエによる薔薇十字団の開祖を主人公とする神秘的な作品『化学の結婚』(1616)を結び付け、ブレイクのオカルト風の世界観を強調している。
ブレイクとの関連で言えば、ブレイクが詩の題材としたミルトンの『失楽園』(1667)をテーマにするものも多い。イギリスその他のプロテスタント圏が積極的に「悪魔」を文学化してきた経緯については、黒木朋興『ロックと悪魔』(春秋社、2024)に詳しく、同書で黒木は、ヘヴィー・メタルもその系譜に位置づけている。実際『失楽園』に由来するようなルシファーがどうこうといったテーマは、ヘヴィー・メタルだけでなく多くのサブカルチャーに取り入れられている。
そのまま「パラダイス・ロスト」という名をもつバンドもおり、アンビエントとデスメタルを融合したような(私にはほとんどヒーリング音楽と同じように聞こえるが……)エレンドというフランスのグループも、アルバム3枚を使って『失楽園』を作品化している(『Leçons de ténèbres』1994、『Les ténèbres du dehors』1996、『The Umbersun』1998)。ただ、これらがミルトンや彼の思想への関心によるのではなく、あくまで『失楽園』が提示する悪魔の物語への興味から出発していることは、たとえば続編である『復楽園』(1671)のキリストが悪魔に打ち勝つ物語をテーマにするヘヴィー・メタル作品が見当たらないことからも明らかだろう。このこともまた映画や漫画など、他のサブカルチャーにも共通である。
宗教的なテーマの世俗化という意味では、ダンテ『神曲』もしばしばヘヴィー・メタルで言及される。
2021年に中心人物のジョン・シェイファーがアメリカの議事堂襲撃に参加して逮捕されたアイスド・アースというバンドがいる。ヘヴィー・メタルのシーンではかなり有名なバンドで、多くのファンに衝撃を与えた事件だったが、その後キリスト教徒になったと更生をアピールしている。宗教への帰依と更生は何の関連もないように感じられるが――むしろ罪を糾弾する人が周囲にいない、自分に都合の良い環境を選んだとすら思えるが――、日本でもスキャンダルを起こした芸能人が時折仏道に入るのと同じようなことかもしれない。
ともかく、このような事件で騒がれる以前の1995年にアイスド・アースは『バーント・オファリングス』という『神曲』の地獄篇をアルバム一枚のテーマにした作品を発表している。
またシンフォニーX『アンダーワールド』(2015)も同じく一枚で地獄篇を扱ったもので、さらに個々の楽曲を挙げていけば数えきれないくらいの例があるはずだ。そもそもポピュラー文化における地獄・煉獄のステレオタイプはどれもダンテを下敷きにしているとも言える。だが一方で天国篇を扱った作品が少ないことは、『神曲』やダンテの思想の全体ではなく、ミルトンの例と同様、部分的に提示される世界観に惹かれるミュージシャンが多いことを示している。
例外としてはブラジルを代表するバンド、セパルトゥラが2006年に発表した『ダンテXXI』は、現代の世界情勢や社会問題をダンテに関連づけて扱った意欲作で、これは地獄篇、煉獄篇、天国篇と三部に分かれている。
南部ゴシックとメタル
概して古い作品が選ばれがちなヨーロッパ文学に対して、アメリカ文学の場合は一部の怪談的な作品(ワシントン・アーヴィング「スリーピー・ホロウの伝説」(1818)など)や、エドガー・アラン・ポーの諸作品、ハーマン・メルヴィル『白鯨』(1851)のように特別に有名な作品の例を除くと20世紀の作品が選ばれやすい傾向があるようだ。
管見の限りでしかないが、20世紀アメリカ文学の中でも、いわゆる「南部ゴシック」と呼ばれる一連の作家の作品が取り上げられることが多いように思う。宗教や因習に関わる人間や社会の内奥をえぐり出すことの多い作品群は、ネガティヴなものをデフォルメし、誇張するヘヴィー・メタルにアピールするものがあるのだろう。
たとえばウィリアム・フォークナー『死の床に横たわりて』(1930)からバンド名をとったアズ・アイ・レイ・ダイイングというバンドがいる。ハードコアとメタルを合わせて、よりメロディアスでポップにした「メタルコア」というジャンルの代表格である。
フォークナーの同作は、ミシシッピ州の架空の街に暮らす一家の母親が、死後は故郷の墓に埋葬して欲しいという遺言を残して死に、残された家族が40マイル=64キロ離れた町まで亡骸を運んで行く、という物語が次々と視点を変えて語られるものだが、そこに家族愛のような単純な温かさはない。遺言は呪いのように家族を運命づけ、翻弄しつつ、しかし彼らはその遺言を完遂しようとする。フォークナーの代表作の一つであり、元々読者の多い作品ではあるが、このバンドが2001年にアルバムデビューして人気となったことにより、若い世代に改めてその名が知られるようになった。
ただ、バンド自身もカリフォルニア出身で、歌詞などに直接フォークナーに言及したものはなく、あくまで有名小説の雰囲気をバンド名に借りているだけだとも言える。
たが、このバンドのヴォーカルのティム・ランベシスは、2013年に別居していた妻の殺害を、おとり捜査官に依頼して逮捕されるという事件を起こしたり、飼い犬への虐待動画が流出して問題になったり、自身を含むメンバー全員がキリスト教徒であることをしばしばインタヴューなどで強調していたが、後にそれがキリスト教信者へのレコードの売り上げを期待してのことで本当は無神論者なのだと明かしたりするなど(メタルコアにはクリスチャン・バンドも多い)、暴力や宗教とのこんがらがった結びつき具合ではフォークナー作品にも引けを取らない人物ではある。
ヘヴィー・メタルからは離れるが、同じく南部ゴシックとカテゴライズされる作家フラナリー・オコナーの作品が、ブルース・スプリングスティーン『ネブラスカ』(1982)に影響を与えたことはロック・ファンにはよく知られている。特に、「善人はなかなかいない」(1953)や「田舎の善人」(1955)など、読者の道徳観を揺さぶるような短編が直接同作のインスピレーションになったことはスプリンスティーン本人も含め、多くの人が語っている[2]。
オコナー自身は「善人はなかなかいない」のタイトルをエディ・グリーンの同名の軽音楽曲(1917)から採ったにもかかわらず「クラシック音楽はどれも同じに聞こえるし、それ以外は全部ビートルズに聞こえる」[3]と語るほどに音楽に関心がなかったようだが、特定の音楽のイメージがない作家ゆえ、後の音楽家を刺激するのかもしれない。
オコナーの『賢い血』(1952)は、彼女の多くの短編と異なり、ほとんどブラック・コメディと言って良い作品である。第二次世界大戦からの帰還兵ヘイゼル・モーツが自動車を買い、そこを「キリストのいない教会」として布教して回る中で奇妙な人々たちと出会う、という物語で、強いて個別のテーマを挙げれば、宗教にまつわる真偽の問題や、信仰と無信仰の関係(有神論抜きの無神論は成立しうるのか)、偶像崇拝の是非などが描かれる。だが、それよりも個性的なそれぞれの登場人物の突飛な行動や、その行動を支える思考を追うことの方が、作品の面白さを的確に捉えることができるように思う。
この『賢い血』を扱った作品を2曲紹介したい。
一つは、サンプリングや電子音をメタルに取り込んで「インダストリアル・メタル」の旗手となったバンド、ミニストリーの「ジーザス・ビルト・マイ・ホットロッド」(1992)である。特に、シングル盤のRedline/Whitelineヴァージョンでは、この小説の映画版(ジョン・ヒューストン監督、1979)から「良い車に乗ってる人間は何にも心配する必要がないんだ、分かるかい? 良い車に乗っている人間はね、いちいち正当化される必要がないんだよ」というセリフがそのままサンプリングされている。[4]
ミニストリーのこの曲では、タイトル通り、アメリカにおける自動車へのオブセッションと宗教、そして性とを結び付けている。改造車/カスタムカーを指す「ホットロッド」の語源は諸説あるが、その一つに「ロッド」が男性器に由来するというものがあり、ミニストリーは明らかにそれを踏まえている。『賢い血』のモーツは性欲を直接認めようとしないが、この曲では「お前に指を入れるたびに、お前はワイルドな田舎のビッチになる」と歌われ、自動車と女性を重ねて見るステレオタイプを(敢えて)採用している。
もう一曲はコロージョン・オブ・コンフォーミティ(COC)の『ワイズブラッド』(1996)である。オコナーの小説そのままのアルバム・タイトルで、3曲目に同タイトル曲を収めている。COCはノースカロライナ出身のバンドで、本人たちもアメリカ南部出身であることを強く打ち出しているがゆえの選択と言える。
同曲の歌詞は「俺は歩いたことがない/飛ぶことを覚えたから/お前の天国というか高みが/俺を生き延びさせた/俺は悪魔が/聖書とヤってるのを見た/聖者、罪人/どちらとも俺は競ってるんだ」というもので、直接的に同作からの引用などはされないが、オコナー作品と共通する宗教と倫理、性の問題が、ブルース風のけだるく引きずるようなヘヴィー・メタルにのせて歌われている。
2023年に亡くなったコーマック・マッカーシーは、南部ゴシックという括りには収まらない作風をもつ作家だが、初期は確実にフォークナーを継ぐこのジャンルの書き手としてのキャリアをつんでいた。
彼の『ブラッド・メリディアン』(1985)は、アメリカ先住民の頭皮を剥いで賞金をもらう一団を描いた作品で、旧来の楽天的なウェスタン小説に対して「anti-western」とも呼ばれる。作中でこの一団は行く先々でとにかく虐殺と破壊を繰り返すのだが、その描写はもはや人間というより疫病や自然災害のようですらある。峻厳な自然の描写と人間性への疑問はイギリスのトマス・ハーディの影響を見て取ることもできそうだ。
実際、マッカーシーは「もし、うまく付き合えない作家を挙げるとしたら(でも歳をとったら仲良くできるかも。分からないけど)、そのリストはそれほど長くはならないね。そこにはD. H. ロレンスとプルースト、ヘンリー・ジェイムズと、あとはまあまあの数のヴィクトリア朝時代のイギリスの作家が入るだろう。でもハーディが別なのは確かだよ」[5]と書いている。そもそも特定の地方の、しばしば架空の街を舞台に、ゴシック的な物語が繰り広げられるという南部ゴシックのコンセプトからして、ハーディがイングランド南西部に架空の「ウェセックス」という地域を設定して小説の舞台にするという発想があったからこそ[6]で、その後今度はフォークナーを経由してガブリエル・ガルシア=マルケスのような魔術的リアリズムにも影響を与えている[7][8]。
1960年代に活動を開始したマッカーシーは世代的に、そんな南部ゴシックのルーツや、あるいは各国の文学に影響を与えたことを踏まえた、新たな南部ゴシックの書き手だったと言えるだろう。
そんなマッカーシーの『ブラッド・メリディアン』を扱ったのが、スウェーデンのブラック・メタル・バンド、ヴァーテインの「ゼイ・ロード・オン」(2013)である。このバンド初のバラード風の楽曲で、ヴォーカルもいつもの叫び声ではなく、深い声でメロディを歌っている(これはファン/批評家から賛否両論あった)。歌詞は抽象的ではあるが、小説に登場する一団が、闇の中を進み続ける様を描写しているように読めるものだ。ヴァ―テインはブラック・メタル・バンドだけあって、ミュージックビデオでは、黒頭巾の集団を登場させ、そこに異教的なイメージを持ち込んでいる。
もはや、メタルというジャンルには入らないかもしれないが、アメリカのアース(Earth)の『Hex; Or Printing in the Infernal Method』(2005)というアルバムでは、収録曲のタイトルはどれも『ブラッド・メリディアン』から採られている。
アースは、元々ブラック・サバスをより極端にしたような、ドローンやノイズを多用した音楽を主としていて「ドローン・メタル」と呼ばれていたが、この作品ではカントリーやブルースといったルーツ音楽を取り入れ、よりソフトな音で演奏しており、しかしその分不穏さは倍増している。
Hexというタイトルは、これまでも数字にゆかりのあるアルバム・タイトルを用いてきたこのバンドらしく「6」を意味するのに加えて、当然、魔女(hexe)に由来する「呪い」「魔術」といった意味も込められているだろう。ブレイクの『天国と地獄の結婚』(1790-93)から引用された「地獄の方法で副題が、そのオカルト的な雰囲気を強調している。『ブラッド・メリディアン』自体には直接的なオカルト的要素は少なく[9]、むしろしばしば指摘されるニーチェの思想との相同を考えると無神論的ですらあるが、ヴァーテインにしてもアースにしても、これをオカルト的なものと結びつけるところに、彼らなりの読解がある。
トマス・ピンチョン
これまで述べてきたような、南部ゴシックとヘヴィー・メタルの結びつきは、おそらくそれほど意外なものではないだろう。既に述べたように、どちらも生死や宗教などをテーマにすることも多く、またホラー的と言っても良い要素は、どちらにも相性が良い。
その意味では、ポップカルチャーなどをふんだんに取り込んだポストモダン文学は、それほど好まれないジャンルかもしれない。この節では、そんな珍しい例としてトマス・ピンチョンの作品を題材にしたものを紹介したい。
ポーランドのデスメタルバンド、ヴェイダーには「サイレント・エンパイア」(1995)という曲がある。その中には「我らは沈黙の帝国を待ち望む」「ホルンを敵に回してはいけない」という歌詞が登場する。これはピンチョンの『競売ナンバー49の叫び』(1966)である。
ピンチョンのこの小説は、女性探偵がアメリカには実は政府の郵便事業を拒む、トリステロと呼ばれる秘密結社があったことを知っていくという設定で、そこに反政府的な態度や国家主義に対する消極的な態度を重ねた、陰謀論的な世界観をもつ作品である。作中には「我らは沈黙のトリステロ帝国を待ち望む(We Await Silent Tristero's Empire:頭文字がwaste=ゴミとなっている)」という言葉が出てくる。郵便が主題の一つだけあって、郵便ホルンのマークが重要な意味をもつのだが、ヴェイダーの歌う「ホルン」とはまさにこの郵便ホルンのことである。
『競売~』は作品発表当時流行語であった「パラノイア」をキーワードに、現実と妄想が混然一体となった、一見いかにも「ポストモダン」らしい軽さをもった作品ではある(1960年代後半に「パラノイア」が流行語になっていたことは、ブラック・サバスの代表曲「パラノイド」(1970)からも分かる)。だがそこにはアメリカにおける先住民の虐殺や、第二次世界大戦など、その表面上の軽さでは覆いきれない暴力的な出来事が埋め込まれてもいる。また、今日では陰謀論がいかに暴力と結びつくかが、より明らかになってもいる。
ヴェイダーの「サイレント・エンパイア」は、ストレートなデスメタルで、ピンチョンの雑多なエピソードや知識の絡み合う百科事典的な面白さはないが、その分作品のこのようなシリアスな側面を強調した解釈だと言えるだろう。
ピンチョンとメタルの関わりで言えば、2013年の『ブリーディング・エッジ』にはブラック・メタル・バンドの名前が登場する。女性探偵が主人公である点や、やはり陰謀論との関わりの点で『競売~』との類似点が指摘される作品で(主人公の名前「マクシーン」が『競売~』にも一度だけ登場する)、しかし『競売~』の陰謀が壮大な分漠然としていたのに対し、『ブリーディング・エッジ』は9.11という現実の出来事を取り入れることで、舞台となる2001年という時代の雰囲気や物語の焦点が明確になっている。
この作品に、バーズムやメイヘムといったノルウェーのブラック・メタル・バンドやブラジルのサルコファーゴが、登場人物の二人の共通の趣味という文脈で登場する。
ピンチョンの作品にはその時代・社会の実在の事物が大量に作品に取り入れられるため、単にそのうちの一つという見方もできるが、サルコファーゴがブラジルで反体制的な立場であったことや、バーズムのヴァルグ・ヴィーケネスが6歳の頃にバグダッドに住んでいたことなどを挙げて、作品のテーマと結びつける考察もある[10]。深読みに過ぎるかもしれないが、そんな深読みを誘発するのがピンチョンの魅力でもある。
この『ブリーディング・エッジ』のような例外はあるが、実は純文学的な作品にヘヴィー・メタルが登場することは少ない。
今回見てきたように、ヘヴィー・メタルの側では積極的に純文学をテーマにしている一方で、文学の側でヘヴィー・メタルを扱ったのは純文学ではなく、主にエンターテインメント、その中でも特にこのジャンルの発展と同時期に人気を拡大していったホラーだった。これはホラー映画の流行とも強く結びつきながら、ヘヴィー・メタルのイメージを固めていくことになる。
(第7回:終)
[1] BBCによる2025年のインタヴュー、Rock star's delight at William Blake cottage revamp.
[2] たとえばWarren Zanes 2023, “Of Songs and Stories: What Bruce Springsteen Learned From Flannery O’Connor”, Literary Hub.
[3] Sally Fitzgerald ed. 1974, The Habit of Being, Farrar, Straus and Giroux, p.566.
[4] Miller, Monica 2014, “‘No Man with a Good Car Needs to Be Justified’: Preaching Rock and Roll Salvation from O’Connor’s Wise Blood to Ministry’s ‘Jesus Built My Hotrod.’” Flannery O’Connor Review 12: 82–98.
[5] Michael Lynn Crews 2017, Books Are Made Out of Books: A Guide to Cormac McCarthy's Literary Influences, University of Texas Press, p.289.
[6] フォークナーがハーディの『カスターブリッジの市長』(1886)の影響を受けているという指摘についてはMichael Millgate 1989, “Unreal Estate: Reflections on Wessex and Yoknapatawpha.” The Thomas Hardy Journal 5, 3 : 32–50.
[7] ハーディの英文学を越えた影響についてはPeter Burke 2009, Cultural Hybridity. Cambridge, UK: Polity.
[8] 但しThe Manhattan Rare Book Companyが公開している書簡によれば、マッカーシーはガルシア゠マルケス『百年の孤独』には否定的ではあった。
[9] 同作のオカルト的側面を読みとろうという試みはある。たとえばRobert Kottage 2017, ‘Mysteries of the Meridian Revealed: McCarthy's Anachronistic Tarot’. The Cormac McCarthy Journal 1 March, 15 (1): 3–29.
[10] Samuel Thomas 2019, “Blood on the Tracks: Pynchon, Bleeding Edge, and (Un)popular Music from Britney to Black Metal”, Orbit: A Journal of American Literature 7(1).
鋼鉄の音楽室(今回登場したミュージシャン/バンドとその音楽 ※登場順)
①アイアン・メイデン Iron Maiden:第三回を参照。
♪Iron Maiden「Rime of the Ancient Mariner」
②ブルース・ディッキンソンBruce Dickinson:1958年イギリス生まれのヴォーカリスト。1981年にアイアン・メイデンに加入し、1993年に脱退するまでの「黄金期」を支えた。ソロ活動を経て1999年にアイアン・メイデンに復帰。このジャンルの代表する「声」の一人である。
♪Bruce Dickinson「Chemical Wedding」
③パラダイス・ロストParadise Lost:1988年結成のイギリスのバンド。デスメタルを演奏していたが、ニューウェーヴ風の音楽を取り入れ、「ゴシック・メタル」と呼ばれる一つのサブジャンルを創り出した。
♪Paradise Lost「Enchantment」
④エレンドElend:1993年にフランスで結成されたバンド。クラシック音楽風のアレンジ・楽器と、ブラック・メタル的な男声の絶叫との対比で注目される。ドラムやギターリフはなく、合唱やシンセサイザーによるアンビエント的な音像が特徴。
♪Elend「The Wake of The Angel」
⑤アイスド・アースIced Earth:1985年結成のアメリカのバンド。正統派のヘヴィー・メタル・バンドとして注目を浴び、またアメリカン・コミックの『スポーン』ともコラボレーションするなど高い人気を誇った。しかし本文中に記した事件により活動は停滞中。
♪Iced Earth「Burnt Offerings」
⑥シンフォニーX Symphony X:1994年結成のアメリカのバンド。当初は中心人物であるギタリストのマイケル・ロメオの技巧をメインに据えた楽曲が多かったが、次第にプログレッシヴ・ロック風の壮大な曲展開をもった作風へと発展する。
♪Symphony X「Underworld」
⑦セパルトゥラ Sepultura:1984年、ブラジルで結成されたバンド。卓越したスラッシュ・メタル・バンドとして注目されるが、1993年のアルバム『ケイオスAD』でブラジルの民俗音楽を取り入れ、グルーヴ感のあるヘヴィー・メタルと併せて、シーンに大きな変化をもたらした。
♪Sepultura「Convicted in Life」
⑧アズ・アイ・レイ・ダイイングAs I Lay Dying:2001年アルバム・デビューのアメリカのバンド。ハードコアとヘヴィー・メタル、特に1990年代に「メロディック・デス・メタル」と呼ばれた明快なメロディを取り入れたデスメタルを合わせた「メタルコア」というジャンルの旗手として2000年代の流行を作った。
♪As I Lay Dying「Through Struggle」
⑨ブルース・スプリングスティーン Bruce Springsteen:アメリカを代表するミュージシャンの一人。アルバム『ネブラスカ』では、それまでのロックンロールとは異なる内省的な弾き語りを披露して賛否を呼んだ。ヘヴィー・メタルとのつながりでは、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンが彼のThe Ghost Of Tom Joadをカバーしている。
♪Bruce Springsteen「Nebraska」
⑩ミニストリー Ministry:1981年結成のアメリカのバンド。元々はニューウェーヴバンドとしてアルバム・デビューしたものの、その後ヘヴィー・メタルを積極的に取り入る。サンプリングやドラムマシンを用いた斬新な音楽性と社会的な歌詞とで、「インダストリアル・メタル」を牽引した。
♪Ministry「Jesus Built My Hotrod」
⑪コロージョン・オブ・コンフォーミティ Corrosion Of Conformity:1982年結成のアメリカのバンド。ブルースを取り入れたヘヴィー・メタルで、南部出身ということもあり、サザン・メタルと呼ばれることもある。
♪Corrosion Of Conformity「Wiseblood」
⑫ヴァ―テイン Watain:1998年にスウェーデンで結成されたブラック・メタル・バンド。このジャンルで同国を代表するバンドの一つ。ライヴでは動物の遺骸などを用いることもあり、その演出が物議をかもすこともしばしばである。
♪Watain「They Rode On」
⑬アース Earth:アメリカで1989年に結成されたバンド。執拗に繰り返されるリフや持続音、ノイズ で「ドローン・メタル」とも呼ばれた。本文で取り上げた『Hex~』は、1997年から活動を休止していた同バンドの復活作でもある。
♪Earth「Land of Some Other Order」
⑭ヴェイダー Vader:1983年ポーランドで結成されたデス・メタル・バンド。冷戦時代の東側諸国にもヘヴィー・メタルのシーンがあり、ヴェイダーはターボ Turboらと並んでポーランドのヘヴィー・メタル黎明期を支えた。また、現在も引き続き高い人気を誇っている。
♪Vader「Silent Empire」
⑭バーズム Burzum:1988年より活動するノルウェーのヴァルグ・ヴィーケネスによるプロジェクト的なバンド。1993年に同じシーンにいたユーロニモスを刺殺し、翌年から服役する。獄中から作品を発表するなど、活動は継続中。「バーズム」やヴィーケネスがかつて名乗っていた「カウント・グリシュナック」は、『指輪物語』に由来する(第六回を参照)。
♪Burzum「Dunkelheit」
⑮メイヘム Mayhem:1983年結成のノルウェーのブラック・メタル・バンド。当初はスラッシュ・メタル的な音楽をやっていたが、その後はより極端な音楽、「コープスペイント(顔を白塗りにし、目の周りを黒く塗るメイク)」などで、ブラック・メタルのステレオタイプを創る。
♪Mayhem「Freezing Moon」
⑯サルコファーゴ Sarcófago:1985年ブラジルで結成されたバンド。攻撃的な音楽はもちろんのこと、前述のコープスペイントやガンベルトなど、ファッション面でも北欧のブラック・メタルに強い影響を与えた。
♪Sarcófago「Satanic Lust」


