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心穏やかに過ごしたいときに学びたい、宮沢賢治の壮大な願い/本間大智『フッと心を軽くする仏教のことば』

「生きづらい」世の中、心が乱れ落ち着かないときがあります。そのようなとき皆さんはどうやって対処しますか。軽い運動や音楽などいろいろな方法があるでしょう。読書もその一つだと思います。仏教は苦しみから解放された生き方をテーマにしてきました。お経だけでなく、昔の僧侶から今の信者さんに至るまで多くの方が仏教の精神に触れた名言を残されています。そのような名言をご自身のエピソードも加えて紹介している『フッと心を軽くする仏教のことば』(本間大智著)から、宮沢賢治の心からの願いに触れた箇所を見てみたいと思います。


 

みんなむかしからきょうだいなのだから、

けっしてひとりをいのってはいけない

ああ わたくしは けっしてそうしませんでした

あいつがなくなってからあとのよるひる

わたくしは ただのいちどたりと

あいつだけが いいとこに行けばいいと

そういのりはしなかったとおもいます            ――宮沢賢治『青森挽歌』

 

 ご法事では、必ず回向文というものを読み上げます。

 お経をお読みした功徳を亡き方にお届けし、無事仏と成るべき道を歩んでいただきたい、という思いを込めるのです(回向とは、相手に功徳を差し上げる、というような意味です)。

 この回向文は統一されたものではなく宗派によって異なりますし、同じ宗派でもお坊さんによって異なることもあります。

 回向文の言葉に「願わくはこの功徳をもって あまねく一切に及ぼし われらと衆生と 皆共に仏道を成ぜん」というものがあります。この言葉は多くの宗派共通のもので、功徳を自分や周りだけでなく、生きとし生けるものすべてに及ぼしたい、という願いが込められています。『法華経』の第七章「化城喩品」にある言葉です。

  

 『法華経』を熱心に信仰した宮沢賢治さんには愛する妹・トシさんがいました。トシさんは二十五歳の若さで肺結核により亡くなります。

 『青森挽歌』はトシさんを失った賢治さんの嘆きです。いや、嘆きと言うのは適切でないかもしれません。

 愛する妹を失い、身を切るような辛さに襲われながらも、賢治さんは妹一人だけの成仏を願ったことはない、といいます。

 トシさんも、そしてすべての人がいいとこに行けますように、そう願ったというのです。我々は自分や大切な人の幸せを願うことはよくあります。しかしまったくの他人の幸せを心から願うことは、生涯で何度あるでしょうか。

 賢治さんは「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はありえない」という言葉を残しています。「世界中の人の幸せを祈ることは、家族や自分の幸福にもつながっていくのだ」という気持ちがあったのではないでしょうか。

 賢治さんは自己の死を目前にした時、『妙法蓮華経』千部を出版し周囲に配るようお父さんにお願いしました。

 『法華経』では「仏の教えを広めようとする人は皆菩薩である」と説かれています。

 

 賢治さんが菩薩の一人であったことは疑いありません。(176~178頁)

 

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