web春秋 はるとあき

春秋社のwebマガジン

MENU

Close-up! この一冊

「ほとけ」とは何かから読み解く仏教の本質/正木晃『「ほとけ」論――仏の変容から読み解く仏教』

「仏」は日本では死者を意味し、古代インドでは仏教以外の聖者を意味したように、釈迦だけを指す言葉ではありません。仏はその時代、その地域で多様に変化していったのです。その展開から仏教を論じた『「ほとけ」論――仏の変容から読み解く仏教』(正木晃著)の「はじめに」から、仏がどれほど多様性あふれる概念であるかの解説を見てみたいと思います。

 


 

はじめに

 

仏教は、読んで字のごとく、「仏」の教えです。

 「仏」は仏陀の略称です。仏陀は、古代インドで使われていたパーリ語やサンスクリットで「修行を完成した者」や「目覚めた人」を意味する「ブッダ」を、漢字で音写した言葉です。

 ちなみに、「ブッダ」は、浮屠(ふと)や浮図(ふと)とも音写されました。日本語の「仏=ほとけ」は、仏教が朝鮮半島を経由して伝えられたとき、「ふと」という発音が少し変化して「ほと」になり、さらに「(専門)家」あるいは「気」を意味する接尾辞の「け」が付加されて、「ほとけ」になったと推測されています。

 仏教で「仏」というとき、それはまず、歴史に実在し、仏教の開祖となった人物、すなわちゴータマ・シッダッタとかガウタマ・シッダールタという俗名をもち、釈迦牟尼とか釈尊などと尊称されてきた人物を指しています。

 

 しかし、「仏」と呼ばれてきた存在は、なにも彼だけに限りません。初期仏教をわりあい忠実に継承してきたとされるテーラワーダ仏教ですら、釈迦牟尼を含めると二五もの過去仏が設定されています。日本仏教では、阿弥陀仏、薬師仏、盧遮那仏、弥勒仏、大日如来など、複数の名があがります。また、釈迦牟尼と称していても、『法華経』に登場する釈迦牟尼は永遠の寿命の持ち主であり、もはや人間とはとても思えません。

 さらに、興味深い事実があります。「ブッダ」という呼称は、仏教が誕生するずっと前から使われていたのです。バラモン教の聖典『ウパニシャッド』には、「ブッダ」と呼ばれた「哲人」たちが登場します。そして、彼らと仏教の開祖とのあいだには、共通する要素が、少なからず見出せるのです。ジャイナ教やヒンドゥー教との関係も、無視できません。

 

 このように、「仏=ほとけ」は、長い歴史の過程で、多種多様な展開を遂げてきました。本書は、「仏=ほとけ」を手掛かりとして、仏教とは何か、仏教の本質はどこにあるのか、を探究していきます。

 全体は九章から構成されています。『ヴェーダ』や『ウパニシャッド』から始まって、六人の全知者たち(六師外道)、ゴータマ・ブッダの実像と悟り体験、部派仏教、大乗仏教、密教とつづき、最終章では日本仏教の仏を論じています。

書籍

『「ほとけ」論――仏の変容から読み解く仏教』正木晃

 

タグ

バックナンバー

キーワードから探す

ランキング

お知らせ

  1. 春秋社ホームページ
  2. web連載から単行本になりました
閉じる