震える鍵盤ハーモニカ
前回は、リードの「ド」君が震え「ドーーー」と叫ぶまでの、鍵盤ハーモニカ自体のメカニズムをちょっぴりファンタジーホラーストーリー仕立てでご紹介しました。また構造的なデメリットに打ち勝つための知恵や、時空を越えた内部構造のロマンについても熱く語ってきました。
ところで前回、巨人さんが楽器に息を吹き込んだ際に、リード家族たちが「苦しいよう」と発するシーンがありました。実はあのとき、鍵盤ハーモニカの内部では、実に複雑な目に見えない圧力の発生、すなわちリード家族への「エアーハラスメント」が起こっていました。今回は、まず「圧力」が発生する様子を「ブラック企業」に見立てたストーリーでお届けしてまいります。
(注)鍵盤ハーモニカの構造や、発音のメカニズムには、様々な要素が複雑に関わっており、まだ学術的に解明されていないことも多数あります。本連載では、その中でも骨格を成す要素に絞って解説を行います。解説の都合上、音を左右する要素であっても、単純化したり、省略しているものがあることをご了承ください。
株式会社ブラックケンハモのケース 〜横行するエアーハラスメント〜
※本ストーリーはフィクションであり、実在の企業・人物とは関係ございません。
「株式会社ブラックケンハモの社内で、エアーハラスメントが横行しているようだ。」
内部社員からの密告を受け、監査局が社内に立ち入ることになりました。
監査員が長いトンネルのような入り口を通りたどり着いたオフィス内は、なんだか湿っぽく、真っ暗で、窓はたまに開く程度、しんとしています。
――ピンポーン。「お忙しいところ失礼します。エアー監査局のものです。視察に参りました。」
監査員が受付に到着するや否や、一瞬、室内に強い風が吹き荒れます。受付のスタッフが風に煽られ、苦しそうに半目を開けながら、張り付いた笑顔で答えます。「い、いらっしゃいませ……」
(続きは書籍でお楽しみください)