国産鍵盤ハーモニカの産声
前回の記事では、戦後の器楽教育におけるハーモニカが、いかにして「一人一台所有」の地位を手に入れたかについて、その歴史を追っていきました。そしてそんな華やかなるハーモニカバブルの真っ只中、静かに日本国内に漂着した鍵盤ハーモニカ。国内の主要メーカー3社(東海楽器・トンボ楽器・鈴木楽器)がそれぞれ自社開発に励む中、鍵盤ハーモニカは少しずつ、少しずつ、教育の島へと流れ行きます。前回に引き続き、福岡教育大学の山中氏をはじめとする、各研究者勢の先行研究を参照しながら、その旅路を追っていきましょう。
レジャー島から教育島へ――透明の脆い橋
1960年、「国民所得倍増計画(1)」という、10年以内に国民総生産を2倍にすることを目標に掲げる経済政策が閣議決定されました。そう、本格的に高度経済成長の時代が始まったのです。
同年の楽器業界誌『楽器商報』では「新しい経営のあり方」という特集がなされ、そこでは以下のような内容が掲載されています。
購買力を持つ層が変わった。国勢調査によっても1世帯当りの勤労人口が増えており農村でも都会でも若い人が働き、経済力を持ってきた戦後は若い顧客を対象にする経営が伸びています。楽器・レコード界もその一つです。
宣伝でも、都会では主婦や若い人向きな言葉や内容がとくにみられます。
ラジオ・テレビなどが普及してこれが生活方式に取り入れられようとしています。(2)
メディアを通じて情報が得やすくなり、また経済的に安定してきた結果、多くの人が海外のカルチャーに興味を持ち、それらを生活様式に取り入れる、ということが容易になりました。
そんな中、ちょっぴり気になる商品紹介記事が登場します。
(続きは書籍でお楽しみください)