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希望のディアスポラ――移民・難民をめぐる政治史 早尾貴紀

【公開終了】ポストコロニアリズムは終わったのか?

はじめに

 「ポストコロニアリズム」という言葉をめっきり聞かなくなってしまった。一頃は「ポスコロ」と略して揶揄されるほど流行していた思想概念だったはずなのだが……。

 しかし、たとえばこの4月の南北朝鮮首脳会談および6月の朝米首脳会談のことを考えても、この5月に建国70年を迎えたイスラエルとその占領下にあるパレスチナのことを考えても、あるいは、沖縄に集中する在日米軍基地建設のことを考えても、植民地支配ないし植民地主義の問題と切っても切れないはずなのだが。朝鮮半島の和平や非核化は大事な課題なのは確かだ。

 そもそもなぜ朝鮮が分断されたのかを考えれば、日本による植民地支配とその解放はどうしても語らざるをえないはずだ。もともと一つの国家だった地域が植民地から解放されたのであれば、当然一つの独立国家となるべきだったのが、東西冷戦のあおりを受けて、そして日本の「身代わり」として分断されてしまった(第二次世界大戦の同盟国であるドイツと同様に連合国によって分割占領を受けるはずが、日本がアメリカ合衆国の単独占領となったために、朝鮮半島が分割された)。しかし、この一連の朝鮮半島情勢についての報道のなかで、その植民地責任についてメディアやコメンテーターが言及することは皆無であった。

 同時期つまり今年の4~5月、イスラエルが建国70年を迎え(1948年5月建国宣言)、故郷を奪われたパレスチナ難民たちが帰還権を訴えるデモを行なったところ、イスラエル軍は容赦ない砲撃と射撃を加え100人を超えるパレスチナ人が虐殺された。そもそもイスラエルは、ヨーロッパで迫害を受けたユダヤ教徒たちが、欧米諸国の支援を受けて、イギリス委任統治領パレスチナに、先住アラブ人の存在を無視して強引に建国したものだ。ヨーロッパ人(ユダヤ教徒)が欧米の意向と利害を代理して入植し、欧米の「飛び地」をつくったわけだから、植民地に等しい。そのために難民となったパレスチナ人たちが正当な帰還権を訴えるデモをおこなって虐殺されているのに、日本の新聞・テレビは一様に「双方の衝突」と報じた。

 沖縄「県」には、すでに在日米軍基地が集中しているが、さらに辺野古や高江に基地がつくられつつある。そもそも琉球王国だった地域に対し、大日本帝国が武力を背景に琉球処分を敢行して以来、沖縄は日本の「内部」でありながら半分「外部」として従属させられている「国内植民地」でありつづけてきた。第二次世界大戦で「捨て石」として日本軍に利用され、戦後はアメリカ軍の占領統治に差し出され、1972年の「復帰」以降も、在日米軍基地が集中的に押し付けられてきた。沖縄は、アメリカ合衆国およびその従属的同盟国となった戦後日本の合作による二重の植民地主義を被っている。だが、国内植民地論はすっかり鳴りを潜めてしまった。「本土」の日本人たちは海の向こうの出来事として無視をきめこむことができるわけだが、その態度こそが沖縄を国内植民地とみなしている証左ではないのか。

 さらに言えば、上記に挙げた三つの事例は、どれも深く連関していて、またそのことを見ないで切り離して考えることはできない。というのも、植民地支配はそもそも帝国主義的な利害のなかで世界を分割支配することだからだ。そしてそうした視角を提供するのも、ポストコロニアリズム論の得意とするところだったはずだ。ところが、単独でも語りえていないのだから、この三つの連関など論じられるはずもない。

 かつて、そう、すでに「かつて」になってしまったかのようなのだが、ポストコロニアリズムが流行していた頃であったら、これらの出来事はまちがいなくポストコロニアル状況の産物として批判的に論じられていたはずだ。しかし、あきらかに認識論的な後退が生じている。いったいなぜここまで落ちてしまったのか。

 

 

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著者略歴

  1. 早尾貴紀

    1973年生まれ。東京経済大学准教授。専攻は社会思想史。著書に『ユダヤとイスラエルのあいだ』(青土社)、『国ってなんだろう?』(平凡社)。共編書に『シオニズムの解剖』(人文書院)、『ディアスポラから世界を読む』(明石書店)、共訳書に『イラン・パペ、パレスチナを語る』(つげ書房新社)、サラ・ロイ『ホロコーストからガザへ』(青土社)、ジョナサン・ボヤーリン/ダニエル・ボヤーリン『ディアスポラの力』(平凡社)、イラン・パペ『パレスチナの民族浄化』(法政大学出版局)、ハミッド・ダバシ『ポスト・オリエンタリズム』(作品社)ほか。

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