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社会を癒す「私」になる――マインドフルネスとポリヴェーガル理論が拓くケアのまなざし 井上ウィマラ × 花丘ちぐさ

災害支援――マインドフルネスとポリヴェーガルの視点から【井上ウィマラ × 花丘ちぐさ】

マインドフルネスから見た災害支援【井上ウィマラ】 

 

1.支援の段階

 

 日本は地震や水害などの災害の多い国で、揺れ動く大地の上で群れで助け合って生き延びながらレジリエンスを育み、それを独特な文化の中に植え込んで生き延びてきたのではないかと思います。こうした歴史的文脈の中で、マインドフルネスがどう役に立つのかについて考えてみたいと思います。

 災害支援にはいくつかの段階があり、まずはそれを理解することが大切です。

 

1

救急救命期

生存の可能性のある人の救命活動、特に72時間がカギ。軍隊的な指揮系統が重要。

2

被災者支援期

食料・水・医療サービスなどの救援活動。避難所、ボランティアセンターの設立など。飢餓・伝染病などを防ぐ。

3

生活復興期

瓦礫の片付け、仮設住宅の設営、臨時生活生産設備など。

4

生活再建期

日常生活、地域コミュニティの再建、心のケア。

 

 最初の段階は「救急救命」ですね。自衛隊やDMAT(Disaster Medical Assistance Team:災害派遣医療チーム)が入り、72時間、つまり3日間が生存のカギとなる。これが終わると、次は「支援期」に入り、水や食料などの生活物資の配給や避難所、仮設住宅の運営が始まります。
 その後に「生活復興期」に入ると、心のケアの必要性も認められるようになって、クレーム対応なども出てくる、という流れになっていきます。

  

2.災害後の心理変化の段階

 

茫然自失期*1

英雄期*2 

ショックを受け、茫然自失の状態のなか、人や財を守るために危険を顧みず英雄的に行動する人もいる。

ハネムーン期

外部から支援に来てくれた人たちとの出会いに支えられて、回復に向かって一丸となり積極的な気分になるが、生活ストレスは募る。
似た体験をした被災者同士が連帯感で結ばれ、援助を期待しながら共同し、あたたかい雰囲気に包まれる。

幻滅期

混乱が収まりはじめ、復旧に格差が出始める。無力感や疲労感が高まり、取り残された人には虚脱感や怒りやうつが出始める。
忍耐が限界に達し、不満や怒りが噴出。連帯や共感が失われる。

再建期

生活のめどが付き始める。現状を認め、将来を考えられるようになる。
日常が戻りはじめ、生活再建に勇気を持ち始める。取り残され、支えを失った人との差が目立ってくる。

 *1 金吉晴 編 『心的トラウマの理解とケア』第2版 じほう 2006 
 *2 デビット・ロモ 『災害と心のケア』 アスク・ヒューマン・ケア 1995

 

 心理的なフェーズとしては、こうした時期を通じて進んでいくことが多いと考えられています。

 最初は「ショック期」(茫然自失期)でもあり、多くの人が一生懸命がんばる時期(英雄期)でもあります。そして、いろいろな人が来てくれてよかった、という外部からの支援に感謝する時期(ハネムーン期)があり、少し落ち着くと、次第に苦しみや怒りが出てきたり、クレームなどが増える時期があり(幻滅期)、それから本当の意味での「再建」が始まります。

 こうした時期について理解を深め、自分はどの時期にどういう形でボランティアに入るかといったことや、自分にできることをどのようにしようかなと考えておくことが大切かと思います。どの時期であっても、自分がしたいことではなく、現場に必要なことをすることが大切です。

  

3.JDGSプロジェクトについて

 

 東日本大震災の直後に悲嘆研究やトラウマ研究の専門家の人たちとJapan Disaster Grief Support プロジェクトを立ち上げました。情報提供や研修活動を中心とした試みです。以下のリンクからサイトをのぞいていただけます。

 ▶災害で大切な人をなくされた方を支援するためのウェブサイト 

 ①「悲嘆(グリーフ)とは」、②「大切な人をなくされた方へ」、③「支援する方へ」、④「心のケアの専門家の方へ」、⑤「役立つ情報」、⑥「JDGSについて」に分けて情報が整理されています。最初は各種リーフレットの配布に力を入れ、順次複雑性悲嘆の認知行動療法研修会やあいまいな喪失に関する研修会などを開催しました。

 「あいまいな喪失」情報サイトもできました。

 ▶「あいまいな喪失」情報サイト

  

4.サイコロジカル・ファーストエイド

 

 緊急時の心の応急処置について、アメリカ国立子どもトラウマティックストレス・ネットワークとアメリカ国立PTSDセンターが作ったものが翻訳されて、兵庫県こころのケアセンターのHPからダウンロードできるようになっていました。

 ▶「サイコロジカル・ファーストエイド実施の手引き 第2版」日本語版 | 兵庫県こころのケアセンター

 それが書籍化されて『災害時のこころのケア:サイコロジカル・ファーストエイド実施の手引き』として医学書院から出版されました(2011)。

 トラウマ的出来事によって引き起こされる初期の苦痛を軽減し、短期・長期的な適応機能と対処行動を促進するために作られたもので、 生涯発達の各段階に応じて、文化的な配慮がなされており、柔軟に用いることができるように配慮されています。 
 『サイコロジカル・ファーストエイド』の中でも、マインドフルネスやSE™のようなアプローチの活用の仕方も具体的に示されていますので、参考にしていただけるといいと思います。

  

5.スフィア基準について

 

 まだ知っている方は少ないかもしれませんが、「スフィア基準」というものがあり、たとえば避難所における食や水の供給法、女性のトイレ設置の仕方や生理用品の提供方法などが安全に行えるようにガイドラインが作られています。こうしたことを日常的に心がけておくと、いざというときに役立つことが多いと思います。

 「スフィア基準」は、ルワンダの難民キャンプで大量死が起きたことに対して、NGOグループや赤十字などによって、災害や紛争の影響を受けた人々が人道憲章の精神にのっとって支援が受けられるようにと作られたものです。
 具体的には、①給水、衛生および衛生促進(WASH)、②食料安全保障および栄養、③避難所および避難先の居住地、④保健医療の4章にまとめられています。

 ▶スフィアハンドブック(PDF)

  

6.PTSDと複雑性悲嘆とうつ病

 

 トラウマに関連して、「複雑性悲嘆」と「PTSD」と「うつ病」が三つ巴になって重なり合っていることを示した研究があります。 

 複雑性悲嘆とは、死別の突然性、暴力性、曖昧性などによって悲しみがこんがらがってしまい、遅れて出てきたり、身体症状などとして出てくるもので、最近では遅延性悲嘆症とも呼ばれるようです。PTSDは、死に瀕するような恐怖によって無力感と孤立無援感にさいなまれることで、記憶が凍り付いて時間が止まってしまい、自我機能が障害されてしまう生きにくさです。うつ病は、攻撃性が内向して自我感情が低下して動けなくなってしまう状態です。

 

 

 苦しみはこれらが重なり合っていることが多いので、どこに問題があって、それぞれをどう癒していくかの順序を理解しておくことも大切です。トラウマが癒えないと、悲しむべきことを思い出すことが難しいからです。悲しめるようになったら、自分を責めすぎず、自分を大切にしながら泣き笑いができるようになることが大切です。そうすれば、失った人との出会いの意味が見つかり、思い出の居場所ができて、その人のいない新しい世界を生きてゆく勇気が出てきます。

  

7.マインドフルネスとレジリエンス

 

 このようにして、泣けない状態から泣けるようになるための支援がトラウマケア、泣けるようになったら自分を大切にして泣き笑いしながら出会いの意味を見つけ出せるように支援するのがグリーフケア、そしてうまく泣き笑いしながら生まれてきた意味を見つけ出すことによって死を受けとめられるように寄り添うのがスピリチュアルケア。

 これらが循環するようになると、自分が育ててもらった恩返しとして誰かのお手伝いがしたくなります。それは自分の子育て(チャイルド・ケア)でもいいし、何かのボランティアでもいいのです。マインドフルネスは、こうしたケアの循環を生み出す潤滑油として、個人や社会のレジリエンス(生き延びる力)を育ててくれます。

 

 

 最後になりますが、マインドフルネスを実践する際には、目の前にいる人を大切にし、何が必要なのか、その資源は周囲のどこにあるのかを考えることが大切です。そして、それを提供できる人や、提供したいと思う人をうまくつなげてゆく。こういったトランスレーション型のつなげるリーダーシップが求められています。まずは個々人のレジリエンスを高め、それが集合的なレジリエンスへとつながっていくようにマインドフルネスを実践していただけるとありがたいと思います。

 

 


 

ポリヴェーガル理論から見た災害支援【花丘ちぐさ】

 

 

災害を生き抜く

 

 災害をポリヴェーガル理論の視点から考えると、やはり、みなで身体を寄せ合いながら安心感や安全感を得ることがとても大事です。ポージェス博士が「生物学的必須要件としての社会交流」と言うように、社会交流は人間として生きていくために欠かせません。サルも毛づくろいをしますが、みんなで身体を寄せ合ってお互いに「大変だったね、でももう大丈夫だね」と感じられることが、ポリヴェーガルの視点からも非常に重要だと思います。

 そして自然な反応として、「闘争/逃走」という反応があることを理解することです。たとえば何か物音がしただけで「また地震かもしれない」と反応してしまったり、恐怖で身体が凍りついてしまって身体がうまく動かないとか、気持ちに張りがなくなってしまって希望を失ってしまうことがありますが、こういった反応は自然な反応だということです。決して自分が弱いとかダメだということではなく、私たちの身体に備わった叡智が、私たちを生かそうとしている証しなのです。ですので、周りの人たちも一緒になって腹側迷走神経や社会交流の状態に戻れるようサポートすることが大切です。助け合いの声掛けや、コミュニティの支えが災害の際には特に重要です。

  

子どもの地震ごっこ

 

 また、子どもが「地震ごっこ」をすることがありますが、これは子どもなりに恐怖を消化し、言葉でうまく表現できない体験を統合しようとしているのです。大人はそれを止めたり叱ったりせず、より安全な「あそび」(注:ポリヴェーガル理論でいう、神経系の協働調整を楽しむ遊びのこと)に切り替えることが大切です。たとえば、鬼ごっこなど、闘争/逃走反応をうまく完了させられるようなあそびに導いてあげる。子どもの身体から出てくる自然の叡智をとめずに、大人がそれをより良い方向に導くことが大事だと考えています。これもポリヴェーガル理論でいうところの「闘争/逃走」あるいは「凍りつき」から「社会交流」へと状態移行することにつながります。状態が移行できないと「トラウマ」となり、移行できれば「トラウマ後成長」へとつながっていくわけです。

  

東日本大震災におけるSE™介入

 

 ここで3分ほどの映像をご紹介します。これは、SE™のプラクティショナーであるアレ・デュアルテさんが東日本大震災の際に行った介入の記録です。ショックで立てなくなってしまった男の子が、あそびを通じて再び立てるようになる様子です。言語は英語ですが、映像を見るだけで大体の内容が理解できると思います。

 


(Youtube|Somatic Experiencing Internationalチャンネルより)

 

 心と身体に同時にアプローチすることが大切ということで、震災の2ヶ月後に、SE™のプラクティショナーであるアレ・デュアルテさんが行った活動の一部を紹介します。

 震災後、子どもたちは過覚醒の状態になっています。ヒトは新皮質が大きいのでトラウマのエネルギーが解放できないのです。そこで、動物の動きを真似したり、パラシュートあそびを通じて絆を深めていくあそびを行いました。あそびの中で、津波にも似たような身体の動きもしています。こうしたあそびを通じて、少しずつ感覚を取り戻していくことがわかります。

 映像の中の男の子は、震災以来、恐怖によって歩くことも立つこともできなくなってしまいましたが、40分のセッションで、あそびを通じて少しずつ回復していきます。あそびにより未完了の闘争/逃走反応を完了させることで、身体が動くようになっていったという記録です。

 また、感情面でもシャットダウンを起こしている状態で、感情表現などが乏しい状態だったということです。医師の診察も仰いだのですが、特に、どこか身体に異常があるわけではないとのことで、心理的なことが原因ではないかと考えられていました。そこで、SE™の専門家のデュアルテさんが訪れたことをきっかけに、SE™セッションを実施してもらうことにしました。

 言葉も通じない関係ですが、デュアルテさんは、あそびを通して、自分が安全であること、また、楽しんで良いことを、身体の動きや表情などを通して、非言語的、かつソマティックに男の子に伝えます。

 デュアルテさんは男の子に、鼻で自分の指を押すように言います。これは、ふざけているような他愛のない動きに見えますが、自分のほうから何かを押し戻すように誘っており、非常に穏やかな形で闘争反応の完了を促します。

 男の子は、自らデュアルテさんの手を押し戻すという闘争反応を体験することで、再び「自分は押し戻す力がある」というメッセージを身体が受け取りました。すると、男の子は次第に活発に動き始め、最後は立ち上がり、駆け出します。

 デュアルテさんは、文化や言語の違いは、SE™の場合は障壁にならないと述べています。誰もが持っている身体を使って、非言語的にアプローチすることができるからです。

  

SCOPE

 

 また、「SCOPE(スコープ)」と呼ばれる手法もあります。

 災害時などには、スローダウン(Slow down)して、身体とつながって(Connect to body)、周囲の様子に気づき(Orient)、注意を行ったり来たりさせて(Pendulate)、お互いに他者とつながる(Engage)ことを目指します。

 「SCOPE」はサイト上で公開されており、誰でも利用可能です。

 https://traumahealing.org/scope/より)

 

 ウィマラ先生も「これはマインドフルネスでやってることだよね」とおっしゃるかもしれませんが、トラウマ療法や神経系の理解に基づいて、スローダウンして身体とつながり、さらにお互いとのつながりも深めていくことを提唱しています。

 

 



 

 (講演後の対談より)

 

ウィマラ:遊びってとても大切ですよね。たしかウィニコットが言っていたと思いますが、「心理療法は遊べない大人を遊べるようにすることだ」、まさにこれですね。

花丘:そうですね。ポリヴェーガル理論でも、「play:あそび」は非常に重要な要素とされています。ポージェス博士も「哺乳類にとってあそびは必須の要件だ」と言っています。

ウィマラ:哺乳類の必須要件としてのあそび、ということですか。なるほど。

花丘:あそびでは、交感神経系も適度にアップしているけれど、社会交流システムの中で安全を感じつつ、ルールの範囲で、興奮や落ち着きを楽しむことができる。これが人間にとって必須要件ということです。

ウィマラ:小さな動物たちがじゃれあう、といったところも含めてですね。

花丘:そうですね。

  

 

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著者略歴

  1. 井上ウィマラ

    1959年山梨県生まれ。京都大学文学部哲学科宗教哲学専攻中退。日本の曹洞宗で只管打坐と正法眼蔵を学び、ビルマの上座部仏教でヴィパッサナー瞑想、経典とその解釈学ならびにアビダンマ仏教心理学を学ぶ。カナダ・イギリス・アメリカで瞑想指導のかたわら心理療法を学ぶ。バリー仏教研究所客員研究員を終えて還俗。マサチューセッツ大学医学部のマインドフルネスセンターでMBSRのインターンシップを研修後に帰国。高野山大学でスピリチュアルケアの基礎理論と援助法の構築に取り組む。現在はマインドフルライフ研究所オフィス・らくだ主宰。著書に『子育てから看取りまでの臨床スピリチュアルケア』(興山舎)、『楽しく生きる、豊かに終える』(春秋社)、『呼吸による気づきの教え』(佼成出版社)、共著に『トラウマとマインドフルネス』(北大路書房)、『私たちはまだマインドフルネスに出会っていない』(日本評論社)、『瞑想脳を拓く』(佼成出版社)、『スピリチュアルケアへのガイド』(青海社)などがある。

  2. 花丘ちぐさ

    ポリヴェーガル・インスティテュート・インターナショナル・パートナー
    ソマティック・エクスペリエンシングⓇ・ファカルティ
    IFS 内的家族システム認定セラピスト
    桜美林大学非常勤講師
    早稲田大学教育学部国語国文学科卒業、米国ミシガン州立大学大学院人類学専攻修士課程修了、桜美林大学大学院国際人文社会科学専攻博士課程修了。博士(学術)。公認心理師。社団法人日本健康心理学会公認指導健康心理士。A 級英語同時通訳者。
    著書に『その生きづらさ、発達性トラウマ?』、訳書にS・W・ポージェス『ポリヴェーガル理論入門』、P・A・ラヴィーン『ソマティック・エクスペリエンシング入門』(以上、春秋社)、他多数。
    国際メンタルフィットネス研究所 代表 http://i-mental-ftness.co.jp/
    ポリヴェーガル・インスティテュート・ジャパン 代表 https://polyvagalinstitutejapan.jimdofree.com/

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