立てば強盗 座れば詐欺師 歩く姿はボッタクリ
2024年1月刊行予定、『筋肉坊主のアフリカ仏教化計画 そして、まともな職歴もない高卒ほぼ無職の僕が一流商社の支社長代行として危険な軍事独裁政権末期のナイジェリアに赴任した2年間の話』の一部を5回にわたって先行公開いたします。謎のマッチョ坊主に誘われ、軍事独裁政権末期のナイジェリアに赴任した駐在員時代を振り返る回想録です。
なお、先行公開の内容は発売される書籍と一部異なる場合があります。
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第5回(最終回)は、ナイジェリア駐在中に流行っていた小噺をご紹介します(第4回はこちら)。
ナイジェリア在留の外国人の間では、こんな小噺が流行っていた。あるところに、イギリス人、アメリカ人、ナイジェリア人の男性3人組のギャングがいた。3人はとても悪く、強盗や殺人などを繰り返していた。
ある日、3人はヨーロッパのとある国で強盗をしたが逃げ遅れ、警官隊と銃撃戦の末、全員射殺されてしまった。当然のごとく地獄に落ちた3人。地獄の入口では、閻魔様がひとりひとり審査をする。そして、どの地獄へ落としてやろうかと考える。それを待っている控えの間に、なんと現世につながる公衆電話があるらしい。生前は悪いことばかりしていて、反省などとは無縁だった3人だが、さすがに目の前の地獄を見て、少しだけ反省した。せめて家族にお別れだけでも……と、公衆電話を使わせてくれるよう閻魔様にお願いする。
願いは聞き入れられて、まずはイギリス人が田舎の両親に電話。事情を説明して素直に謝り、お別れを手短に告げる。電話を切った後、閻魔様が言った。「200ポンド」
高いっ! ほんの1、2分なのに! でもまぁ、仕方ないか。そのくらいなら払える。
それを見ていたアメリカ人も電話。迷惑ばかりかけていた彼女に、泣きじゃくるのを慰めながら「さよなら」を……。切るまでに10分以上かかってしまった。「150 0ドル」閻魔様は仕事熱心だ。手持ちのお金では足りなかったアメリカ人は、イギリス人に借りた。
最後にナイジェリア人も、田舎の両親に電話した。でも、彼の実家には電話が無い。まずは村長の家にかけて、両親を呼び出してもらう。この時点で、村長様のお説教が長々と始まった。そして、ようやく両親につないでくれたのだが、両親は2人とも畑に出ていた。村で一番足の早い男が呼びに行ったが、それでも2人を連れてくるのに1時間近くかかってしまった。両親が高齢で走ることができなかったからだ。その間、再び村長のお説教。
「お前の祖先は、立派な勇士で、村にライオンが現れた時にはなんやらかんやら……」
やっと到着したご両親は、息が切れるやら、興奮するやら、驚くやら、しまいには何やらお祈りもはじめた。ちゃんと会話になるまで、また時間がかかった。
なんだかんだで2時間近く電話を使っていた。
さすがのイギリス人、アメリカ人のギャングも顔が引きつっている。
「お前がイギリスにかけてたのはほんの1、2分だったよ。それでも200ポンド」
「お前も彼女と話してたのは10分くらいかな。それで1500ドル」
「あいつはもう2時間くらいかけてる。あいつそんなにお金あるのか? 俺たちは自分の分を払ったらもうあんまり残ってないぞ……」(足りなかったら強盗するのか?)
もし、地獄の電話料金を払えなければ、どうなってしまうのだろう? 地獄以下の扱い? 鬼たちや、周りの魂たちも興味深そうに見守っている。
いったい、いくら? 閻魔様は言った
「120ナイラ!」 (*約120円)
「何? それは不公平じゃないか?」
イギリス人とアメリカ人は、友情も忘れ抗議を始めた。
「地獄とはいえ大王じゃないか! 死者の魂は公平に扱え!」
閻魔様は平然と言った。
「お前らは国際電話。こいつのは市内通話だ」
(*当時のナイジェリアの市内通話は1分1ナイラ)
2024年1月刊行予定、『筋肉坊主のアフリカ仏教化計画 そして、まともな職歴もない高卒ほぼ無職の僕が一流商社の支社長代行として危険な軍事独裁政権末期のナイジェリアに赴任した2年間の話』(石川コフィ 著)は現在予約受付中です。 書店店頭および各オンライン書店でご注文いただけます。
筋肉坊主のアフリカ仏教化計画
そして、まともな職歴もない高卒ほぼ無職の僕が一流商社の支社長代行として危険な軍事独裁政権末期のナイジェリアに赴任した2年間の話
石川コフィ[著]
2024年1月 全国発売
46判上C・264頁 カラー口絵8頁
定価(本体1800円+税)
ISBN 978-4-393-49541-4
装丁:鎌内文
装画:千海博美