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菌は語る――ミクロの開拓者たちの生きざまと知性 星野保

菌類に知性はあるのか? 仮説と妄想

 

現在の中欧チェコとスロバキアは1939年、ドイツにボヘミア・モラビア保護領として併合された。当時発行された4枚の切手(左)は、ズームアップすれば雪腐病菌がいそうな風景図案になっている。これを組み合わせると、亡きチェコスロバキア共和国の版図はんとが現れる構図となっている(中:特に雲をつなぎ合わせた北部がわかりやすい)!*1 これを占領に抵抗する不羈ふきの心と感じるかもしれないし、単なる自己満足と思うかもしれない。ただ製作者の隠れた意図があることはわかる。時代は下って、隣のオーストリアでは、料金変更による加刷(オーバープリント)に合わせて牧場に柵を加え、雪腐らしい枯れた牧草を眺める牛がトラ柄になっている(2005年)。これらには遊び心という知性を感じる。

切手紹介もこれで終わりになってしまった。アフリカ南部レソトのスキーリゾートや、ブータンの雪男(おまけにこれは三角形だ!)、雪山を背景にしたクルディスタンの傷痍兵など他にも紹介したい切手は手元にある。家人に無駄遣いを指摘される前に一秒一刻を無駄にせず、研究関連資料としての位置付けに日々格闘している。

 

菌は本当に語るのか?

 

 最終回になってこんなことを書くのは、はなはだ申し訳ないのだが、本連載では当初、雪腐病菌を擬人化し、それぞれにひとり語りをさせる案があった。ただこの企画は、悩んだ挙句にボツにした。菌の語り口調を設定するエビデンスがないのだ。少し前、私は自分の書いたエッセイを朗読する深夜ラジオ番組に、恥ずかしげもなく出演した*2。全4回ものたどたどしい朗読のうち、前半2回は雪腐病菌の魅力を無用に熱く紹介し、海外での艱難辛苦を、(ラジオでは伝わらない)身振り手振りを交え、ケレン味あふれた調査エピソードを語る、言わば、実録『菌世界紀行』ダイジェストだ。残りはネタがないので、知恵を振り絞った結果、新たなエッセイを書下ろした。これは所属する研究所の技術力を結集して作り上げた菌語きんご*3翻訳装置、その名も“菌リンガル”を使用し、私が黒雪さんTyphula ishikariensisにその生き方をインタビューし、あまつさえ私の周辺の様々な方をモデルに人生相談に応じるというSFチックなテイストになっている*4

 

図1.私が妄想をたくましくした菌リンガルによるマタンゴへのインタビューの様子。インタビュー相手として、グロンギ族の“メ・ギノガ・デ”とかセミ人間から発生する冬虫夏草とかも考えたが、やはりネームバリューからするとこれだと思う。この挿絵は、私の妄想をもとに作画しているので、科学的な正確さは全く考慮していない。

 

 特に後半2回は放送中からかなりの悪い意味での反響があり、よせばいいのにTwitterをリアルタイム検索すると、「変な奴キター!」と持ち上げられたり?へこむくらいディスられたりした(私は柳沢良則教授*5同様、21時には就寝したいので放送が始まる前に寝落ちした。また、私は家で何かつぶやけば、ボヤくらいすぐ出るので、ツイードを羽織はおっても、ツイートすることはない)。

 放送後、黒雪さんは道産子訛りでよかったかなど、珍しく折に触れ考えることがあった(普段は終了後、大した反省もせず、早々にウォッカを飲んでいる)。確かに私たちは、菌たちに聞きたいことが山ほどあるのだ*6。だから菌好きはプロもアマも皆、向こうの都合も考えず、菌を調べまわしている。できれば培養などまだるっこしいことはせずとも(このフレーズは、私の研究人生全否定だな)、菌に直接話を聞けばいいと思う人もいるかもしれない。

 身近にいる犬・猿・きじ(これはどうなんだろう?)に加えて猫やカラスが知性をもつことは経験的に納得できる(個人的には、明らかにボーカルコミュニケーションを取っているクジラやハイエナ・コウモリたちがどんなことを話しているのかとても興味ある)*7。異論はあるが植物に知性があると考える研究者もいる*8。ここでは、森林内の異なる樹種が、自らの根に共生する菌糸(菌根ネットワークと呼ばれる)を介してコミュニケーションを取っているとされる。菌類は、植物に道具として使われているが、菌自身に知性があるか報告されていない。

 

無神経な菌たちの記憶

 

 神経系をもたない植物に知性があるか、議論が続いている。しかし、植物に記憶があることは既に証明されている*9。植物は、過去に体験した干ばつ*10や冬の記憶*11を、遺伝子を修飾し、その働きを制御することで、脳や腸・神経系がなくとも“覚えている”のだ。

 また、微生物で知性と言ったら粘菌(ここでは農業をするとされる細胞性粘菌ではなく,迷路を解く方の変形菌のこと)である。なにせ絵本のタイトルからして『かしこい単細胞 粘菌』(中垣俊之文,斎藤俊行絵,月刊たくさんのふしぎ2012年11月号,福音館書店)だ*12。ここでは、変形菌の変形体(胞子からはい出た粘菌アメーバが集合した多核の巨大細胞、ゆっくりとだが餌を探してはい回ることができる)が時間を記憶する様子が示されている。温度が25℃、湿度が90%の環境ならば変形体はあちこちはい回り、温度が22℃、湿度を60%に下げると、変形体は動きを止める。10分後、温度・湿度を上げると再び変形体は動きだし、さらに10分後,温度・湿度を下げると止まる。これを3回繰り返すと、温度・湿度が上がって10分後、今度は温度・湿度が下がっていないのにもかかわらず、約半数の変形体は動きを止めた。これは過去の出来事に対応して、現在の動きを調整したと考えられる。確かに無神経でも能無しじゃない! すごいぞ!変形菌。

 また、変形体が餌を探す途中で変形体の嫌がる物質を決まった場所に置いておく。変形体は嫌がる物質に巡り合うと、これを避けて餌にたどり着く.この実験を何度か繰り返すうちに、変形体は嫌なものの手前でこれを避け、遠回りすることを学習する*13。さらに驚くべきことに、この学習経験のない同じ菌株の変形体に、少数の学習済みの変形体を結合させると、同じように嫌なものを先回りして避ける*14

 これらの結果は、神経系を持たない生物にも学習の能力があること、そして何らかの物質を通じて学習した経験が共有!できることがわかる。ヒトでは臓器移植を通じてドナーのし好や経験を共有する現象は、記憶転移*15としてドラマなどの題材にもなることがあるが、科学的に証明されてはいないと思う。しかし、こと話を変形菌に限れば成立するのだ。

 同じように菌類でも菌糸の融合が見られることは、前回紹介した。しかし、菌類に感覚があることはわかっていても(だから酵母にモーツァルトを聞かせようとするのだ!?)、記憶があるかは、やはりいまだに知られていない。

 話を以前のエッセイに戻すと、菌リンガルの設定として、菌類に会話可能な知性はあるが、コミュニケーションは困難を極めるとした。なにせ菌類とヒトとでは思考回路が随分と違うだろう*16(でなけりゃ、十年一日のように毎日眺めまわされていたら、何か言ってきても不思議じゃないし、こちらとすれば優しい言葉の一つもかけてほしい)。やはり菌類と会話するには、AI(人工知能)を搭載した自動翻訳機に丸投げするしかないだろうと思い、この連載のため色々と調べていて驚いた。AIの開発理論の一つであるネオ・サイバネティックスの解説で、“生物は記憶をもつ”と記されていたからだ*17。この考えは、チリの神経科学者であるマトゥラーナおよびヴァレラ両博士によって発表されたオートポイエーシス理論*18に基づいている。

 マトゥラーナ博士が視神経の研究を通じて発表した理論は、外部からの刺激は、神経細胞内部の変化に直接関係せず、神経系は自らの過去の経験に基づいて変化するとした。つまりオートポイエーシス理論では、生物は自己に基づいて自らを作り上げていく。生物は物質的には、代謝により物質循環をおこなう開放系だと広く認識されている。しかし、この理論では、生物のもつ情報伝達は、閉鎖系と解釈される。

 この記述にまたもや驚き、原典を当たってみるとこの理論は動物の神経系をもとに作られ、現在ではシステム論―事物をとらえる方法として自然科学よりも哲学や社会科学分野で知られている。とは言え、襟鞭毛虫などオピストコンタを含む幅広い真核微生物による自己組織化の解説に取り上げられている*19。ふーむ。しかし、これらの事例を眺めても(私がこの理論の全てちゃんと理解しているとは思わないが)、動物に最も近く、脳や神経系を持たない菌類が過去を記憶し、対話可能な知性を持つ直接の証拠だと私は判断することはできなかった。

 

私は見た!

 

 今思うと、菌類も過去の出来事に対応して、現在の動きを調整しているのではないかと思うような出来事を観察したことが、覚えているだけで2回ある。あれはまだ、私が札幌で研究していた頃、4月のとある日に雪が解けまして、こんな日に素敵な雪腐に出会えないかと思ったところで黒雪さんの菌核あなたを見つけた(この部分、途中まで書いてみて、さだまさし氏の名曲の出だしに似ているので寄せてみた♬)。でもあまりに見事だったので、ただちに実験室に持ち帰って、菌核の一部を表面殺菌(簡単に言えば、70%エタノール水溶液でさっと洗った後、湯冷ましの滅菌水で数回洗って、軽く水切りする)した後、寒天培地に植えた(先端を火炎消毒した後、十分にさましたピンセットで菌核をおもむろにつかみ、軽く握ると黒雪さんの菌核は、簡単につぶれる。大きさは随分と異なるが、感覚的には黒豆を割り箸で握って、つぶしてしまうのに近い。茶雪さんTyphula incarnataの菌核はもう少し硬く、赤柄さんTyphula phacorrhizaに至ってはかなり硬く、メスで切る必要がある。これを寒天培地の中に埋めるように入れる)。冷蔵庫で培養し、通常ならば2週間程度でつぶれた菌核から菌糸が成長してくる(図2左)が、この時、ぱっと見は何も生えていなかった。そのままシャーレをまた冷蔵庫に戻して、さらに2週間ほど経っても目立って菌糸は伸びてこない。表面殺菌が強すぎて菌核が弱ったり、細菌などに感染したのかと思い、顕微鏡を覗いて戸惑った。

 菌糸が束になって生えている(図2右)。まるで“きのこの柄”のようだ。見慣れぬもの見て、私はシャーレをそっと冷蔵庫に戻した(後日、この時のことを思い出して、写真を残しておけばよかったと後悔している。今どきはデジカメの時代なのだから、気になるものがあれば、深呼吸して冷静になった後、ちゃんと記録しておいた方がいい。少なくとも私は、不思議なモノに巡り合って一目でちゃんと説明できることがほとんどない。ただ何かの拍子に、あれは、こう解釈すると面白い論文になるのでは思いつくことがあるが、時すでに遅し...orz)。

図2.私が見た融雪直後の菌核から発生した束になった菌糸(右、模式図)。左は通常の菌糸成長の様子。ピンセットでつぶしてできた痕から菌糸が様々な方向に生えてくる。右の挿絵は、私の記憶をもとに作画しているので、科学的な正確さは担保されていない可能性がある。

 

 さらに数週間が過ぎると、束になった菌糸の先端から1本ずつになった菌糸が成長し、やがて見慣れた黒雪さんのコロニーとなった。そして一度普通の姿になったコロニーを新しい培地に植え継いで、冷蔵庫で培養を続けても変化はなかった。あの束になった菌糸は、なんだったのだろう? 合目的的には、こう解釈することもできる。

 黒雪さんたちは、菌核で夏を越し、晩秋に菌核からきのこを出す。菌核は、菌糸では生き残れない厳しい暑さに耐えるための役割がある。日本なら三寒四温は、雪解けから春先の季節だろう。この時期は温度変化が大きく根雪が解け、暖かい日が続いたと思うと急に凍える程に寒くなることがある。こんな時、また寒さが来たからと言って、菌核が発芽してしまったら、その後の暖かさにやられてしまう。菌核は、季節の変化を読む力が必要になる。私が見た、束になった菌糸は、黒雪さんの菌核が新たな環境に戸惑いながら反応しているようにみえる。そして、ずっと涼しい冷蔵庫で飼われていると、野外にいたころの“記憶”が失われるのかもしれない(もしかすると土の中にいると思っているのだろうか。というのも2年以上放置プレイ中の培地の上の黒雪さんの菌核は、驚くべきことに菌核の中にまた菌核を作る。これは、ロシアで報告されたチューリップの球根への土壌感染する菌株の性質によく似ている*20)。

 1日の生活のリズム(概日がいじつリズム)は、動植物だけでなく、細菌から菌類まで幅広い生物に認められている*21。しかし、年単位の変化、季節となると菌類がどのように感じているのかわからないことが山積みだ。今年の春には、あの束になった菌糸に積極的に出会いたいし、できればいつでも会えるように実験室で再現したいと願っている。

 

おわりに

 

 ここまで、私のつたない文章にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。読者の皆さんが、この連載に関して心の奥底でどのように考えているのか、(家族から自己中で興味のないことでは)鈍感力が(極めて)高い(と言われる)私にはわかりませんが、涙ながらに休載・打ち切りを懇願する読者からの訴状などが編集部に届かなかったことに安堵し、少なくとも無事終了を迎えることができ、私は感無量です。

 今回記したように黒雪さんを始めとする雪腐病菌たちが、この連載をどう考えているかも私は全く見当がつきません。ただ、本来ならばドマイナー過ぎて、一般の人たちがほとんど目にすることのない雪と生きる菌類たちについて、これまでに知られていることをありったけ詰め込んだので、私だけは非常に満足しています(師匠を始めとする雪腐病菌を愛する世界各地の降雪地に点在する研究者も、皆同じ気持ちだと勝手に信じています)。惜しむらくは、第二次世界大戦中、日本で雪腐病菌を生物兵器として開発していた秘話*22を突っ込めなかったことです。この部分は今後さらに膨らまして、戦前から現代まで日中朝を舞台とした、菌類SFラノベにしたいと思っています*23。今後とも宜しくお願いいたします。

 

(「特別付録」菌リンガルによるインタビューの様子はこちら『菌は語る』でお楽しみください!)

 

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*1 G. Bartoli Avec ou sans les dents. 42 histories invraiseblables mais vraies dont un timbre fut un jour le hèros… Jean-Claude Lattès, 2009. また郵便学者、内藤陽介氏のブログ(http://yosukenaito.blog40.fc2.com/blog-entry-1973.html?sp)を参考にした。

*2 2017年2月20日~2月23日放送。なぜか再放送(2018年1月22日~1月25日)もされている。NHKラジオの担当ディレクターから放送予定が載った雑誌が送られてきた時、これどうするの(?_?)って顔になったが、本連載に当たり、私が極端には盛っていないことを証明するエビデンスになった。根田D感謝しています。ラジオ深夜便2017年2月号,199: 130-131.同誌2018年1月号,210: 131-132.

*3 この部分、北海道大学における植物学・微生物学の礎を築いた宮部金吾先生に掛けているわけではない。

*4-1 多分、この内容は今後どこにも発表することはないと思うので、こちらに付録として掲載する(「菌リンガルで黒雪さんにインタビューしてみた」)。改めて読み直してみると、こんなこと電波に乗せているんだ。私、意外に勇気あるな。

*4-2 もしかすると、竹本泉『あおいちゃんパニック』3巻,講談社1984年で主人公たちが人間並みの知性をもつ宇宙人(ぱっと見はネコ科?)“きぴきゃぴ”とコンタクトする際に、翻訳機3台を介して会話する設定に影響を受けているかもしれない。

*5 山下和美 『天才柳沢教授の生活』シリーズ,講談社 1988年より。個人的には町工場のネジ、ロシア系の女性教員、定年した植物学者と共に退職した妻の経済学者のエピソードが気に入っている。

*6 ゲノムマイニングという言葉をご存じだろうか? 微生物の遺伝子から、人にとって有用な物質などの合成にかかわる遺伝子を探し出すことを、鉱山での採掘になぞらえたものだ。微生物は菌類ならペニシリンや、放線菌(細胞が数珠状につながる細菌が多い)ならストレプトマイシンなど様々な抗生物質を生産し、私たちの生活に役立っている。しかし、これらの物質は、微生物の都合で作られ、たまたまこれを人が利用しているとも言える。遺伝子解析技術の進展から、微生物にはこれまでに人の知らない抗生物質などの化合物を合成する遺伝子群(一化合物の生成に複数の遺伝子が関わっていることが多い)をもっているらしいことがわかってきた。しかし、この遺伝子群がどんな物質を作るのかを知ることは難しい。どのように遺伝子のスイッチをONにすればいいのかわからない場合が多く、手っ取り早く本人に聞いてみたいと思うのは、私だけではないはずだ。

*7 Humphrey博士によれば「知性は、動物が何らかの根拠をもとにして妥当な推論をおこない、それに基づいて行動を変えるときに発揮されるものである」とされる(リチャード・バーン,アンドリュー・ホワイトゥン編,『マキャベリ的知性と心の理論の進化論  ヒトはなぜ賢くなったか』ナカニシヤ出版,2004年)。また、自然環境や、他の個体などのような社会環境のなかでのみ発揮できるとされる。この本では、霊長類の知性を議論しているため、菌類はおろか、他の生物の知性については議論がない。

*8-1 植物の知性というと、ウソ発見器をつないだ植物が、ゆで上げられる小エビの断末魔に反応を記したクリーヴ・バクスター『植物は気づいている バクスター氏の不思議な実験』(日本教文社,2005年)や、植物が人間の心を読み取るとするピーター・トムキンズ,クリストファー・バード『植物の神秘的生活』(工作舎,1987年)のようなちょっと不思議系の研究?を想像されると思うが、今はそれだけではない。ちなみにバクスター氏は、ヨーグルトにウソ発見器をつないで同様の反応を確認している! 細菌である乳酸菌に感情があるならば、菌類でも同じだと思うが記録はない。当時は今のようにこうじやテンペは世界的に知られていなかったのだろう。ある意味残念だ。

*8-2 ペーター・ヴォールレーベン『樹木たちの知られざる生活 森林管理官が聞いた森の声』(早川書房,2017年)は、著者の主観が強い印象を受けたが、グニエル・チャモヴィッツ『植物はそこまで知っている 感覚に満ちた世界を生きる植物たち』(河出書房新社,2013年)とステファノ・マンクーゾ,アレッサンドラ・ヴィオラ『植物は〈知性〉をもっている 20の感覚で思考する生命システム』(NHK出版,2015年)は、植物のもつ感覚について科学的な記述がなされている。

*9 この話題は、古くから人々の興味を集めたようで、大正6(1917)年には、「植物に記憶力があるか又苦痛を感じるか」と題した解説が、松島種美『生物界の不思議』(同文館)に収録されている。内容を読むと記憶があるともないとも断言していない。
 山梨大学の鈴木章方博士は、「“温度記憶”のescape timeを求める:種子の休眠解除に有効な熱および光処理の組合せ」と題した講演を1986年、日本植物生理学会年会にて行っている。ここでは温度履歴の残存効果を“温度記憶”と呼び、休眠させたイネ科植物、カゼクサの種子を用いて、光処理を行ってから少なくとも24時間以内に熱処理を与えないと光の効果は無効になること。熱処理は43℃が最適であり、6時間で十分な効果があること。先に熱処理を行った場合、少なくとも6日間はこの効果が持続すること。0-10℃が最適であり,10日以上の処理期間が必要と報告している。

*10 Y. Ding, M. Fromm, Z. Avramova Nat. Comm. 3: 740 2012.

*11 佐竹暁子「冬の記憶:FLCのエピジェネティック制御から明らかになる植物の繁殖様式」,種生態学会編,荒木希和子責任編集『エピジェネティクスの生態学 環境に応答して遺伝子を調節するしくみ』文一総合出版,2017年.

*12 この他にも『粘菌 その驚くべき知性』(PHP研究所,2010年)とか『粘菌 偉大な単細胞が人類を救う』(文芸春秋,2014年)、いずれも著者はイグノーベル賞受賞者の中垣俊之博士。他にも映像とコラボしたジャスパー・シャープ,ティム・グラハム『粘菌 知性のはじまりとそのサイエンス』(誠文堂新光社,2017年)など、いかに変形菌がイケてるかのアピールが濃い。

*13 R.P. Boisseau, D. Vogel, A. Dussutour Proc. R. Soc. B 283: 20160446, 2016. 

*14 D. Vogel, A. Dussutour Proc. R. Soc. B 283: 20162382 2016.

*15 クレア・シルヴィア,ウイリアム・ノヴァック『記憶する心臓 ある心臓移植患者の手記』(角川書店,1998年)。完全にフィクションだが、シティー・ハンターの続編にもこんな設定がある。また、ナルトが多重影分身で、それぞれに修業し、元に戻る(一体化する)ことで経験を共有するエピソードは、かなり変形菌っぽい。

*16-1 『新スター・トレック』(TNG)第102話に登場する、神話や歴史上の出来事を引用した比喩で会話するタマリアン星人とのコンタクトを描いたエピソードを思い出す。

*16-2 なにせ同じ人でもところ変われば、言葉も変わる。アフリカ南部で使用されるコーサ語の歌、The click songを聞いた時は驚いた。舌を鳴らす、クリック子音を連発するのは聞いて楽しく、歌うのはとても難しい。

*17 西垣通『AI原論 神の支配と人間の自由』講談社,2018年.

*18 ウンベルト・マトゥラーナ,フランシスコ・ヴァレラ『オートポイエーシス 生命システムとはなにか』国文社,1991年.

*19 F. Durand Herv. Teol. Stud. 73: 11-17 2017.
 Mingers Syst. Res. Behav. Sci. 14: 303-313 1997.

*20 O.B. Tkachenko Mycol. Phytopathol 29: 14-19 1995(露文,英文要旨).

*21 C.H. Johnson Nature 430: 23-24 2004.和文の解説はこちら, https://www.natureasia.com/static/ja-jp/ndigest/pdf/v1/n8/ndigest.2004.040810.pdf

*22 私が調べた経緯は、「キノコ兵器化計画の顛末」と題して、群像, 71 (11): 238-239 2016に発表した。開発に関わった研究者の手記に雪腐病菌(菌核)とあるのでガマノホタケである可能性が高いと踏んでいる。

*23 実はラノベが書きたいと宣言してから、既に3年が経過している。星野保 参考になる「転生モノ」(週刊新潮掲示版), 週刊新潮9月8日号, 76 2016.構想はあるのだが、時代背景など設定にわからないことが多い。藤田知浩編『外地探偵小説集 満州篇』(せらび書房,2003年)など当時の大衆小説を読むと、少数かもしれないが、満州や関東州を生まれ故郷と感じ、日本の本土に終戦後帰る気のない人がいることを当たり前と思いながらも驚き、その境遇をもっと知りたいと思う。

 

筆者近影:厳冬の筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所にて(撮影:出川洋介博士)ちょうどうまい具合に薄毛隠しに帽子をかぶっても何ら非難される状況でないのがうれしい。寒空の下、悪さをして反省のために外に出されているのでは当然なく、「山岳微生物学」の講義の一環として、地衣類の解説を(出川さんが)行っている一コマである。

 

 

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著者略歴

  1. 星野保

    1964年東京都生まれ。名古屋大学大学院農学研究科博士後期課程退学。博士(農学)。2018年現在、産業技術総合研究所生命工学領域研究戦略企画室総括主幹。専門は菌類の低温適応とその産業利用。著書に『菌世界紀行――誰も知らないきのこを追って』(岩波書店)。誰もが楽しく読め、かつわかりやすい、寒さと生きる菌類の解説を心掛けている。しかし、意図せず滑った文章を放ち、周囲を凍らせる、こおりタイプの特性をもつ。

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